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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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170/228

170話

「起きろ」

「ん……? あ! 夜!?」


 ヒコトに起こされると、辺りはすっかり暗くなっていた。


「もう日暮れから随分経った。そして、ここがルヴァリスの入口だ」


 腕から降りて、正面を見る。深く、暗い森が、広がっていた。玲奈は息を呑む。


「行け」

「……ヒコトさんは、やっぱり入れないんですか」

「ああ。お前が起きる前に足を踏み入れたが、ここまで戻された」


 ここから先は、結界が張られているようだ。目を凝らしても、何も見えないが、強い魔術がかかっているのだ。


「回路石を渡しておく。出る時、呼べ」


 魔石を受け取る。玲奈の命は、九垓の子供に繋がっている。玲奈を守ることが、ヒコトのミッションだ。


「ヒコトさんはどうするんですか」

「お前がいなきゃ、身を隠す手段はいくらでもある。追手が来ないうちに、早く行け」

「……はい。ありがとうございました。また」

「ああ」


 玲奈はヒコトに背を向け、森を進んだ。一歩、二歩、進んで後ろをもう一度振り返る。


「え……」


 そこに、ヒコトの姿は見当たらなかった。


(消えちゃった)


 暫し呆然として、再度振り向き、前へ進んだ。すると、掌で、カタカタと貰った回路石が揺れた。握っていた手を開けると、それはパキン、と割れて風に吹かれて飛んで行ってしまった。


「えっ!! 嘘っ!」


 あれがないと、ヒコトと連絡が取れない。慌てて欠片を拾い集めようと駆け出す。しかし、走り出した途端に、玲奈の視界は真っ白な霧に覆われた。


「今度は何……」


霧はどんどん濃く靄がかり、ついに真っ白で何も見えなくなった。


(進むしかない……?)


 一旦、回路石は諦めた。迷いながらも、行くしかないと足を進める。ざくざくと落ち葉を踏みしめる音だけが森に響いた。何分だろうか、視界を霧で染めながら歩いていると、強い睡魔がぐわっと襲った。


「っ、あれ……」


 駄目、と思いつつも、眠さに抗えない。膝から崩れ落ち、玲奈は前のめりに森に横たわってしまった。


「ぁ……」


(だめ、起きなきゃ……なの、に……)

 



 玲奈がすぅ、と眠りに落ちた背後から、一人の男がすっと姿を現した。玲奈と同じく落ち葉を踏みしめている筈なのに、彼の足元から、音はしなかった。


「…………」


 男が人差し指を振ると、玲奈はすっと胸元から宙に浮く。男は霧の濃くなる森の奥深くへ、玲奈を連れ去った。




 温かい毛布に体が包まれている。ぬくぬくと丸くなって、心地よさに笑みが溢れた。


(お布団久しぶりだぁ……)


 そろそろ起きようか、と玲奈は背伸びする。


「……んんん」

「起きたか?」

「ふぁ……んっ!?」


 ハッ、と振りかぶる。玲奈の前には、見知らぬ男。さらりとしたストレートの黒髪に、うっすらと笑みを浮かべている。つり目だが、あまりきつくは見えない。背丈はそれほど大きくなく、百七十センチぐらい。年齢は二十代半ばといった風だ。


「あ、あなたは」

「ルノー。宜しく」

「よろしくお願いします……ここはルノーさんのお家ですか」

「ああ。守り人(もりびと)が代々継いできた住処だ」

「守り人……」

「ここの管理人くらいに思ってくれ」


 ルノーはほら、とマグカップを差し出す。


「わ、ありがとうございます」

「ん。そんな固くならないでいいよ」


 本人がそう言うので、「分かった」と頷いた。


「ルノーはその、私のこと、どこまで」

「大体知ってるさ。レナちゃん?」


 名乗ってないが、名前を知られているようだ。


「なんで知ってるの?」

「貴類から聞いた」


 玲奈は小さく息を呑んだ。


(本当に、貴類と意思疎通ができるんだ……)


「この森に、貴類がいるの?」

「ああ。あんたなら会えるだろうよ」

「えっ! 本当に!?」

「貴類は本来人の前には姿を見せないし、この森に受け入れることも稀。それがあんたには歓迎の意を見せていた」

「歓迎の意って?」

「ここに来る時、眠くなったろ」

「うん」


 睡魔に抗えず、意識を失った。それを運んでくれたのが、恐らくルノー。


「あれは貴類の魔術。あんたを呼び込みたくて、眠り香を撒いたんだな」

「……あの時、近くにいたの」

「今も、恐らくいる」

「えっ!?」


 すぐに辺りを見回すが、それらしき姿は見えない。


「貴類は空気や地面と自身を一体化させるのが好きだ。そこにいるのかどうか、人間は分からない」

「そうなんだ……」

「そのうち、姿を現すから気長に待ってろ」


 気長に、と言われても玲奈は追われている身だ。深刻な表情の玲奈の頭に、ルノーは手をぽんと置く。


「こっちから貴類に接触すんのは無理だから、諦めたほうがいいぜ?」

「うん……」


 もう、印の効果は発揮されていない。ロアンは玲奈を追えない。


(ここにいることは、恐らく知られている。けど入ってこれないから、ひとまずは安心。問題は出ていく時)


「あの、この森に入ったら、回路石が砕けちゃって」

「貴類が弾いたんだな。外ものの魔力が気に入らなかったんだ」


 そう聞いて、玲奈は懐の魔石を取り出す。


「こっちは大丈夫だったのは、私しか使ってないからかな?」

「そうかもしれないけど、分からない。貴類の感覚を完全に理解するのは難しい」


 ルノーはベッドのすぐ近くに椅子を引っ張ってきて、玲奈の側に腰掛けた。


「貴類に会えるのは少し時間がかかるかもしれないけど、俺は粗方、あんたの事情を知ってる」

「うん?」

「レナちゃんが知らないだろうことも、知ってるってこと」

「……教えてくれるの」

「ああ。貴類がそれを望んでる。まだ疲れてっかなと思ったけど」

「知りたい。教えてください」


 ルノーは頷いた。


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