168話
「ヒコトさん! お話が!」
一瞬呆気にとられたヒコトは、一度目と同じ表情をしてみせた。
「……で、二度目もやられて戻ってきた」
「はい」
「俺は倒れながら、何か言おうとしていた」
「そうなんです。でも、分からなくて」
「鉄矢を放ったが、相手に届かず地に落ちてたんだな」
「はい」
玲奈の拙い説明で、ヒコトは状況をすぐに理解した。
(何かをこいつに伝えようとした。恐らく、相手の術の特性に気づいた。――矢は届かずに折れた。それから導き出されること)
「少しでも読み取れなかったのか」
「口の形からは……多分『兵器』とか、『正義』って言ってた気が……でも、それが何を伝えたいのか」
玲奈の断片的な情報をもとに、ヒコトは論理を組み立てていく。しかし、猶予は少なかった。
「チッ……来る」
答えは出ないまま、ブリッツの、三度目の襲来を受けることになった。
(やるしかない)
再び、地面から鉄砂を操る。
(矢が駄目なら)
ヒコトを中心に鉄砂が渦上に舞い上がり、竜巻を作った。
(これで呑み込む)
ヒコトは魔力を集中させ、一気に放出した。ブリッツの姿を捉えると、竜巻を最大威力でぶつけた。――が、いつの間にか、操っていたはずの鉄の砂が、かき消されていた。
(なるほど、そういう……)
「隷糸切れがない、止まっ――」
倒される寸前にヒコトが届けた言葉。
――玲奈に、しっかりと届いていた。
「ヒコトさん!」
三度、玲奈はこの場に戻ってきた。先ほどとは違う、手掛かりを携えて。
「隷糸切れがないと言ったんだな」
「はい!」
「なら、相手の術は判明した。ブリッツは速いんじゃない」
「え?」
「時間を止めているんだ。お前と同じく、時を操る」
「っ……時間を?」
どういうことだろう。隷糸切れとは。時間を止めるとは、禁制魔術ではないのか。スラジで使える人物はいないのでは。疑問は次々浮かぶが、今はそれより先に、やるべきことがある。
「どうやって倒せば!」
「――倒すのは難しい」
「……そんな」
ヒコトの言葉に、玲奈は絶望した。ヒコトはしかし、冷静だった。
「倒す必要はない」
ヒコトは鉄砂を土中から吸い上げだした。先ほど見たより、ずっと多く、視界いっぱいに、黒い砂が舞う。
(何を……)
砂状だったそれは、ヒコトの魔力によって変質して、カキン、カキン、と金属片のぶつかる固い音を奏でた。
「わっ」
玲奈の頭上に、影がかかる。数十秒の間に、そこには巨大な鉄の牢獄ができていた。玲奈とヒコトはすっぽりと覆われていた。
「時間を止められても関係ない。逃げ抜ければ勝ちだ」




