表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

162/162

162話


泰斗(たいと)様。ご療養のところ、捜査へのご協力感謝いたします」

「……別に、いいよ」


 その声は、まだ変声期の最中。掠れた声だった。


(この子が……)


 九垓の姉、舞連(まいれん)華曜(かよう)の息子である。まだ気だるそうにしながらも、(より)に興味があるのかじっと見つめている。縁はそれににこりと返し、ベッドの前で膝を折る。


「いくつかお伺いしても?」

「いいけど、お兄様に話したこと以外、喋る気ない」

「勿論です。まず、美音様のことを。彼女は今回の責任を取る形で、王都からの追放が決まったようです」

「なっ……なんで! 美音は悪くないよ! 俺が呼び出したんだ!」

「ええ、その通りですね」


 泰斗は美音の処遇をまだ知らなかった。泰斗に知らせることに、把南は渋ったが、玲奈の必死の懇願に、頷いた。縁のやりたいようにさせるというのが、依頼を受けてもらう条件だ。苦い顔で二人の会話を聞くに徹している。


「しかし、美音様には敵が多いのが事実です。今回のことを好機と見た方々によって……」

「っ、じゃあそいつらが犯人だ! 美音を追い出すために、俺を殺そうとしたんだ!」

「そうかもしれません。それを望む人物がいるとすれば……」

「っ、母さんだ……」


 泰斗は悔しそうに拳を握りしめた。


「母さんは美音を憎んでた。追い出すために、俺を殺そうと……」

「舞連様はあなたの実の母親ですよ? いくら美音様が憎いからって、そんなことをしますか?」

「……分かんない。でも、そうとしか」


 泰斗は悲しそうだった。玲奈の心も苦しくなる。年はまだ十二だという。そんな子供に問い詰める事ではないだろう。でも、縁のやり方を、玲奈は止めない約束だ。縁は泰斗へ追求を続ける。


「ご両親とは仲があまり良くないのですか?」

「……うん。母さんも父さんも、美音の話をしたら、怒るし……」

「そうですか。美音様とは、事件以前にもよくお会いしていたのですか?」

「ちょっと前までは普通に会ってたよ。母さんの目に入らなければ、怒られなかったから。でも、ここんとこ母さんがいなくても、侍女が告げ口するようになって、あんまり話せなくなっちゃった」

「だから、夜中に呼び出されたのですね。監視の目がある中、どうやって連絡を取っていたのですか?」

「手紙を書いて、緯平(いへい)に渡してもらった」

「あなたの付き人ですね。書いた後は、すぐに彼に預けたのですか?」

「えっと、ちょっと机に閉まってたかな」

「ふむ」


 泰斗の部屋から出ると、同じ階の左の突き当りが母・舞連。右の突き当りが父・華曜の部屋となっている。縁は把南に尋ねる。


「人目を盗んでこの部屋に入れる方は、侍従の者の他には、ご両親くらいでしょうか」

「確かに、お二人なら容易ではありますが……」 



 次に訪れたのは、泰斗の母、舞連の所だった。


「この度は捜査にご協力ありがとうございます」

「真犯人の証拠を突き止めてくれるというなら、いくらでも協力します。状況証拠だけでは、十分な罰には至りませんもの」


 舞連は憎々しげに言う。美音を王都追放としても、まだ気が収まっているわけではないようだ。


「では、まず事件当時、どこにいらっしゃいましたか」

「……まさか、私を疑ってるのですか」

「調査には必要なことなのです。どうかご容赦を」


 縁を思いっきり睨むものの、引かないと悟って舞連はその時のことを思い出した。


「あの日は、一人で部屋にいたわ」

「証明できる方は」

「部屋に入っていくのは、侍女が見てます。その後、侍女が呼びに来て、泰斗の容態を知りました」

「つまり、アリバイを証明できない、空白の時間がある」


 彼女は縁の言葉に不快を思いっきり顔に出したものの、暫くして諦め、「そうね」と答えた。


「では、泰斗様の殺人を企てる人物に心当たりは」

「それはもちろん。美音に決まっています。私と華曜の子という事実に、憎しみを覚えたのでしょう」

「なるほど……それ以外に、泰斗様が恨みを持たれるような可能性は」

「あり得ません! あの子は、自慢の息子です。優しく気高い、私の宝物。あの子を恨むなど、どれだけ性根が腐っているのか」


 舞連は一層語気を強めた。縁は興味深そうに観察すると、質問を続ける。


「では……華曜様と、舞連様の最近のご様子を伺っても?」

「……何故です。事件に関係ないでしょう」

「いやいや。被害者はお二人の息子様です。周辺の様子を詳しくお伺いすることは事件解決に必要なことです」

「……探偵とは無粋な職業のようですわね」


 舞連は気分を害したようだったが、ぽつりぽつりと、夫との仲を語り出した。


「不貞が発覚してからは、殆ど会話していません。話すこともないわ」

「なるほど……華曜様から、舞連様に話しかけられることは?」

「そんなことができる立場ではないでしょう」

「分かりました。ありがとうございます」


 縁は次に、父親の華曜のもとへ行った。


(かっこいい……)


 その美貌に、玲奈は息を呑んだ。伏し目がちな憂いの表情から、色気が匂い立つ。目が合ったら動けなくなりそうだ。これは姉の夫といえど、くらりと来てしまう気持ちも分かるかも、と密かに頷く。


「まずは事件当時、どこにいらっしゃいましたか」

「自室に。侍女に声をかけて、酒を持ってこさせました。その後は、一人きりでした」


 華曜も、舞連と同じ。完璧なアリバイはない。でも、それで何が判明するというわけではない。


「では、最近、息子さんとのご関係はいかがでしたか」

「泰斗とは……妻の目もあり、あまり気安く話せるような状況にはありません」

「息子さんに、後ろめたさを感じてる?」

「……そうかもしれません」

「それは、寂しいでしょう。息子さんとろくに交流できないとは」

「ええ、そうですね」

「息子さんにお会いしましたが父親似のように思いました。華曜様に負けず劣らずの色男にお成りになる日も近いのでは」

「……どうでしょう」

「……美音様の処遇については、ご存じで」

「はい」

「どう思われます」

「一番良い形に収まったと思います。これで、妻の気持ちが晴れれば良いのですが」


 縁は目をぎらつかせて、華曜が発する一字一句を聞き逃さんとしていた。



 縁は、その後も侍女や、泰斗に近い官吏たちに聞き込みをした。調査は二時間足らずで終わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ