158話
玲奈とヒコトは再び同じ日数を船に乗って、カンシュタットの港へ辿り着いた。
「休んでる暇はない。先を行くぞ」
「はい!」
既に日は落ちている。宿は数軒あるが、路地に人通りは殆どない。前回は、ここで宿に泊まって捕まった。
「走れるか」
「はい!」
玲奈は魔石を取り出した。久しぶりの出番だ。地面へ砕くと、慣れ親しんだ緑色の光が灯った。
「行くぞ」
頷いて、玲奈たちは駆け出した。
海辺の街は、少し入ると森が生い茂って、急に斜面になった。この山岳地帯を越えると、カンシュタットの都市部に入り、国外の者は容易くは入れない。
「どのくらい走ったら山を抜けるんですか?」
「このペースなら一日だ。今日が五日……もう数時間もすれば六日になるが。印が効力を発しだすまでは、何とか間に合う」
(……あれ? 何か……)
頭の片隅に何かが引っかかる。チカチカ、と煌めいた感覚は、ヒコトの続いた言葉に、消えていった。
「街の検問を抜けるには、多少頭を使わないといけない」
「というと」
「お前がどれだけできるかだが……、待て」
「え?」
ヒコトは、言葉を止め、後ろを窺った。そして、大きく舌打ちする。
「追手がいる!」
「えっ!? なんで!?」
「知るか!」
珍しく声を荒らげ、ヒコトは窮地の脱し方を考える。
(コイツの足じゃ敵を撒くのは無理だ。すぐ追いつかれる。……やたら数が多い。カンシュタットにバレようがお構い無しってか? コイツを庇いながら、あれを全部いなすのは厳しい……どうする)
「ヒコトさんっ、どうすれば!」
ヒコトは目を瞑り、最善策を導き出した。
「……先に行け。お前を庇いながら戦うのは無理がある」
「っ、分かりましたっ!」
「これを持っていけ。俺が跡を追える」
ヒコトが渡したのは、小さな鉱石だった。魔石の一種だろうか。頷いて、懐へ仕舞う。それを見届け、ヒコトは向きを変えた。
待ち構える間もなく、十数名の衛兵たちが現れる。
「女がいないぞ!」
「コイツに構うな!」
早速、玲奈の不在に気づいた兵たちが、散開していく。ヒコトは舌打ちし、手近の敵から潰していく。
(クソッ、多すぎる)
数は着実に減らしているものの、玲奈の方へ向かう敵は、何人か確実に取りこぼしている。
(殺しはしないはずだ。捕えられたあと、取り返すのが現実的か)
一方。玲奈は、土地勘の全くない山道を走りながら、パニック状態だった。
(何でっ……、まだ七日になってない! 印は追えないはずなのに!!)
全速力で走っていては、魔石を使っていても息は切れる。酸素が不足していく感覚の中、頭を占めるのは、ロアンの手が玲奈の後ろから、首に伸びてくるイメージだった。
「いたぞ!」
「っ――!」
後方に、スラジ兵の声。
(また、アイツに捕まるっ……!)
赤い姿が思い浮かぶと、玲奈は恐怖に勝てずに、反射的に逆廻をした。




