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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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155/162

155話

「やっと……止まった……」

「休憩は挟んだろう」


 玲奈が馬から降りた時は、足はがくがくになっていた。ヒコトが言うように、一度短い休憩があったが、殆ど気絶していたようなものだった。お尻の痛さに悶えながら、ヒコトの後ろを歩く。


 港の周囲をきょろきょろと見回すと、玲奈はハッと気付いた。


(この空気、ロアンに捕まった倉庫と同じ……)


 湿っぽく、潮の香りを微かに感じる。捕まっていたのは、港の近くだった説が濃厚。


(船でスラジに戻されるとこだったのね……)


 そう考えて、もっと重大な可能性に思い当たる。


(待って、てことはこの辺にロアンがいるかも……!)


 玲奈は一気に青褪めた。顔は知られていない筈だが、事実、玲奈は捕まった。九垓は否定していたが、内通者が玲奈の特徴を伝えたかもしれない。もう、玲奈の顔は割れている可能性がある。


「どうした。血相変えて」

「……この辺に、追手がいるような気がして」

「へえ?」


 ヒコトは珍しく、感情を顔にのせた。興味深そうに玲奈を見た。


「本当だとしたら、流石は宣告の、破滅の子だ。俺に分からない気配を、お前が追えるとは」

「あ……いや、何となくですけど」

「興味がある。どんな気配を感じたのか、聞かせてくれよ」

「あの、それはあとで! 近くにいるかも!」

「すぐ捕まるような範囲にはいない。俺が保証する」

「……そうですか」


 それを聞き、ホッとする。ヒコトはますます面白そうに玲奈に詰め寄った。


「本当に、感じたのか?」

「え……」

「気配があると言った癖、俺が否定した途端に、安心する。気配が確かなら、安心できないだろう。お前の素振りはまるで、この近くに敵がいる、と知識を植えられたかのようだ」

「……気配といっても、あやふやなものなので、ヒコトさんがそういうなら、大丈夫だろうと思っただけです」

「動揺してるな。お前は顔に出すぎる」

「っ……」


(どっ、どうすれば!)


「じっくり聞く時間は、船の中で取ってやる。来い」

「……はい」


 一先ずの猶予を貰ったが、ヒコトについて行く玲奈の背中は、しょぼしょぼと頼りなかった。



 船に乗り込む直前、港を振り返る。

 

(いない……よね)


 一際目を引く赤い髪は視界に入らず、ほっと溜息を吐いた。


 船は、そんなに大きくない。長さは約七十メートル、幅は十メートル程だ。乗り込むと、小さな船室に連れて行かれる。寝具は二つ、横並びになっていた。


(えっ、ここでヒコトさんと過ごすの)


「警護とはいえ、他人と密室なんてクソと思ってたが……楽しみができた」

「ひっ」


 喉から、引き攣った声が出た。口角を薄ら上げながらも、瞳孔はビキリと開いていた。


「お前が胡に辿り着くまでの跡を聞いても、腑に落ちないことばかりだった。スラジの軍隊はそこまで間抜けじゃない。相手は何も知らぬ小娘一人。現れる場所が粗方分かっていながら、捕まえるどころか、姿をはっきり見た奴もいない。一番接近したのは、王都から外れた地方で、怪しげな逃走者を目撃したという役人のみ」


(ロメールに逃げたことも知ってる)


 この前のスラジでの潜入で、玲奈の情報を粗方掴んだのだろうか。


「よっぽど第三王子が上手くやったのかとも思ったが、監視がある中、一人でお前を保護するにも限界がある。そして、その保護を離れて迷宮に行ってもなお、お前は生き延びた。一級魔石があろうと、仲間が優秀だろうと、本人に能力がなきゃ死ぬ場所だ。そして、お前にその能力はない」


 はっきり言われたが、それは事実だ。玲奈に反論の余地はない。


「お前は何か、隠してる力がある。それによって、お前は命を繋ぎ止めてここまできた」


 玲奈は息を止め、ヒコトを見つめ返すことしかできない。目を逸らしたら、殺られる。


「状況から、ある程度どんなものかは見当がつく。が、先に聞く。隠してる理由を言え」

「……」


 誤魔化しは、効かない。今躱しても、ヒコトは諦めないだろう。玲奈が諦め半ば、口を開く。


「全てを他人に委ねるのは、過ちだと気づいたんです。だから、誰にも言わない」

「……そうか」


 ヒコトは玲奈から距離を取った。


「その意思があるなら、お前の口を無理に割らすのは辞めておく。その力を使われる可能性もある」


(引いてくれた……けど、もう殆どバレてる)


 玲奈に特別な力があること。どういった能力なのかも、推察されている。


(バレて、すぐにどうなる訳じゃないけど)


 ヒコトとの旅は、常に危険が付き纏うものになりそうだ。全く油断できず、居心地の悪さをひしひしと感じ続けた。



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