152話
(自分の部屋だ……朝に戻ったの?)
着いたのは、枢晶宮の玲奈に割り当てられた部屋。朝日が差し込んでいる。
(日にちを確認しなきゃ)
ここにあるカレンダー代わりのものというと、食堂前にある、石造りの暦帳だ。見に行こうとして、思い留まる。
(誰が内通者か分からない。軽率に部屋出たらまずい)
「あっ、そうだ」
玲奈は机の引き出しを開けて、暫く閉まっていた魔石を取り出した。
(持ち歩かないと)
懐に入れると、扉からノックの音が届いた。
(ヒコトさん? なら、大丈夫……? いや、確証はもてない……)
返事もせず固まっていると、ヒコトは勝手に扉を開けて中に入ってきた。
「起きてんなら返事しろ」
「あ……はい」
「……どうした」
「えっと……今日って何日ですか」
「三日」
(三日? 結構前に戻ってる……)
玲奈が襲われた日は、十一日だ。この日に戻されたのは、理由があるはず。
(それまでに、内通者を特定する。もしくは、隠れてやり過ごす)
「……リュウと何かあったか」
「はい?」
「いつにも増してぼんやりしてるから」
「あー……ユランといるのを見てしまって」
「鉢合わせないように仕込むか」
「そんな、大丈夫ですよ。そこまでしないで」
「……そうか」
全然違うことで狼狽えていたのだが、誤解させてしまった。今日もヒコトは玲奈に寄り添ってくれる気配がある。以前の拒絶っぷりから思うと、偉い違いだ。
(そう思うと怪しい気がしてくる)
ヒコトの変化がみられて、割とすぐ、今回の事件が起きた。玲奈に近づいてきたのは、ロアンに内情を報告するためだったら。実際、玲奈の居場所を一番よく知っているのはヒコトだ。
一歩、距離を取る。
「私、ご飯食べに」
「ああ」
駆け足で食堂へ逃げ込む。部屋を出るのは危険かと思っていたが、内通者が部屋に入ってこれるなら意味がない。
(流石にヒコトさんはない? 首護隊は王を守る一番の要なわけで、その人が裏切りなんて……)
そこまで考えて、浮かんだのはシャロフ。要人とどんなに近しかろうが、可能性を排除はできない。
食堂はいつも通り人で溢れていて、そのことにホッとする。食事を取りながら、考えを整理する。
(襲われたのは、誰もいない時だった。一人になったら駄目だ。部屋でも首護隊についててもらった方がいい? でも、その首護隊が危険かもしれない……)
玲奈は考えに耽り、近付いてくる足音に気付かなかった。
「おい」
「え? あっ……」
声をかけてきたのは、リュウだった。これは記憶にはない出来事だ。
「何呑気に飯食ってんだよ」
「え……ごめん」
「チッ……」
それだけ言って、リュウは居なくなった。
(何で声かけてきたんだろ……あれ以来、近づいてこなかったのに)
リュウのことは全然吹っ切れてないが、今は命の危機だ。それを気に掛ける余裕はない。
(リュウに助けを……、無理だ)
少し前ならすぐに彼を頼っていただろうが、今、その勇気は出ない。
一頻り考えて、思いついたのはこの国一の力を持つ人だった。




