151話
「ん……」
(ここは……)
霞む視界の中、段々と焦点が合っていく。薄暗くて、埃っぽい。倉庫のようだ。きょろ、と辺りを見回す。
「おはよう。ご機嫌いかがかな」
「―――――ッッ!」
目の前に映り込んできた鮮烈な赤に、喉が引き攣った。やはり、前に同じようなことを、経験していた。
(ロアン……)
その人物は、微笑んでいた。目を横に細めて、愉快と言わんばかりだ。
恐らく、玲奈を一番殺したがってる男。それが今、目の前にいる。
(どうして……ここは胡王国なのに。待って、もしかして意識を失ってる間にスラジに?)
外の景色を見たいと首を捻るが、窓らしきものはここにはなかった。
「安心しろ。まだスラジではない」
「……」
「すぐに行くことになるがな」
玲奈の視線だけで、考えが分かったようだ。体は、動かない。座ってる椅子に、縄で括り付けられているのだ。
(縛り方も、前と同じ)
シャロフに裏切られて、ロアンの元へ差し出された、あの後。逆廻を行って、そのまま逃げて迷宮に入ったのだ。デジャヴに、脳裏がチカチカと揺れる。
ロアンはコツ、コツとゆっくり玲奈の前に近づき、目線を合わせるように膝をついた。
「っ」
唇に、親指が這う。長い指は、かさついた唇を優しくなぞる。
「ずっと、お前に会いたかった。焦がれていたと言ってもいい。夢で何度も、お前の姿を描いた。やっと会えた」
ロアンはうっそりと笑う。囁くように耳元に吹き込まれる。
「やはり、殺したくて堪らないな……」
ゾクゾク! と背筋を悪寒が走る。
「ああ、良い顔だ。お前の絶望に染まる顔を何度も夢想した」
「っ……あなたに、恨みを持たれる覚えはありません」
「俺が誰だか分かってるような口ぶりだな」
「……いえ。知らない人なので、恨みを買った記憶はないです」
「成程。それが何処まで演技か知れたものではないが……、いいだろう。教えてやる。俺はスラジ王国第一王子、ロアンだ」
「……なぜ、私を追うのですか」
「それも知らぬふりか。協力者を庇い立てしたいか?」
「…………」
(長居して取り戻しつかなくなる前に)
逆廻は、いつに戻してくれるか、分からないのだ。胡王国に来て、束の間の安寧を得ていた。久しぶりの危機に、玲奈の感覚は鈍くなっていた。いつまでもロアンとのんびりお喋りしている暇はないが、気になることばかりだ。
「どうやって私の居場所がわかったの」
「さあ、どうしてかな」
勿論、簡単に言うわけはないだろう。
「胡王国に協力者がいるのね」
「好きに想像しろ。どちらにしろ、お前の行く先は決まっている。国を挙げて歓迎してやる」
「……」
「お前がどうやってここまで逃げてきたかは、じっくりと炙り出してやる」
(サディのこと、まだバレてるわけではないんだ)
喉元に、ロアンの掌が添えられた。以前、捕まって、首を絞められた時の事が蘇る。目を閉じて、久しぶりに、時を戻した。




