148話
翌日、泰斗は無事に目が覚めて、ほっと息をついた。しかし、低体温状態が長かったことで、まだ意識がぼんやりしており、母と顔を合わせると、またすぐに眠りに落ちた。
一方で、悪いニュースもあった。泰斗が落ちた穴から、僅かな魔力痕が見つかった。つまり、これは事故ではなく、何者かによって仕組まれたもの。
舞連は、息子の無事を確かめて安心したのもつかの間、それを知って感情の矛先を付け替え、九垓に爆破して向けた。
「美音を罰するべきです!」
「美音が関与してるかは分かりません。これから」
「いいえ! 美音が起こしたものに決まっています! 殺人未遂です!」
「……これから、犯人はしっかりと調べます。落ち着いて」
「あの子は華曜との間の子供。美音はいまだ華曜を想い、泰斗に妬みを向けたのです」
「……姉上」
「そうに違いありません!」
九垓の戒めの視線も、舞連はまるで気にしなかった。
「全て、あなたの想像でしかない。証拠なく罰すること。胡王国にて、少なくとも、私の治世下では行わない」
「っ、では、また咎めなしとするのですか! 以前の不義の後も、美音はこれまで通りの不自由ない暮らしを続けた! 先日は雫那の夫にまで手を出す始末! もう我慢なりませんっ……」
「落ち着いてください」
舞連は、怒りで顔を紅潮させ、涙さえ浮かべていた。一度間を入れれば、荒い呼吸をフー、フーと落とす。
「雫那の夫とは、何も無かった。話していただけです」
大分べったりとくっついていたようだが、それは余計なことだ。
「見つかったのが不義を成すより早かっただけのこと。雫那が気がつかなければ確実にそうなってました。なんせ、雨明は華曜の再来と名高い色男。華曜と会えない代わりを雨明で、と浅はかな考えを持ったのです」
「それもまた憶測に過ぎません」
正直、九垓もその可能性は高いと思っているが、これもまた余計なこと。
「とにかく、このままは納得できません。彼女を王宮に置いておくことはリスクでしかありません。王都の外へ出すべきです」
(やはりか)
舞連の望みは、美音の王都、王宮からの追放。雫那も先日のトラブルの際、同じことを望んだ。九垓の答えは前回と同じだ。
「できません。美音を追い出せば、王家の信頼失墜は免れない」
「嫌疑を明らかにすれば、評判を落とすのは彼女だけでしょう」
「そんな単純なものではない。王家内の醜聞は一族そのものの品位を落とすことになる」
九垓は、意図的に口調を変えた。姉弟としてではなく、王として向けた発言であると、舞連も悟る。しかし、それでも彼女は、引かなかった。
「美音が居なくなるのなら、評判など瑣末事」
「……いい加減に」
九垓の叱責の声は、ヒステリックな叫びに塞がれた。
「奴は私の子を殺そうとしたのよ!」
「……姉上」
「夫を寝盗るに飽き足らず!! その上っ……!」
「姉上、お気持ちはよく分かりました。……どうするのが最善か……、少しお時間をください」
「……」
涙をぼとぼと落としながら、舞連は侍女に促され、部屋から出ていく。扉が閉まる前に、恨みがましい目が九垓に向いた。
「私、何をしでかすか、分かりません」
「……」




