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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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147/162

147話

 それは、真夜中に起こった。


「陛下! お休みのところ申し訳ありません、緊急事態です!」

「なんだ……?」


 九垓は部下の焦りの滲んだ声に、目を半分以上閉じたまま、応えた。


泰斗(たいと)様が川に落ちて重傷です」


 その言葉に、すっと頭が覚醒した。


「っ、すぐ行く。今は」

「医務室に!」

「分かった」


 杷南の声に飛び起きる。体はまだ怠さを訴えているが、そんなことを気に留められる場合ではなかった。向かう道すがら、杷南は状況説明を続けた。


「現場には美音(みおん)様が居合わせていたようです。今はお部屋に」

「美音が? ……不味いな」


 九垓は、状況を即座に把握した。



 泰斗というのは、九垓の姉である舞連(まいれん)の次男だ。舞連には二人夫がいる。一番目の英慧(えいけい)との間の息子が、長男・冠夜(かんや)。今年で十三歳になる。二番目の夫、華曜(かよう)との間にいるのが、冠夜の一歳下の泰斗(たいと)だ。


「華曜様は、美音様との不倫疑惑がもたれた後、舞連様とは不仲が続いております。その上、泰斗様は美音様に憧れていると専らの噂でした」

「そして、美音との逢い引き中に事故……姉上は怒り心頭だろう」

「並々ならぬ思いがあるのは自然なことかと。そしてこの状況に、雫那(しずな)様が口を出してこないとは思えません」


 現在、美音と絶賛喧嘩中なのが雫那だ。夫に手を出されたと、美音を宮から追い出せと九垓に直訴したのは記憶に新しい。


「姉上は」

「泰斗様に付き添われてます。雫那様にはお伝えしてません」

「それでいい。明日になっても暫く伏せておけ」

「そう長くは誤魔化せませんが」

「分かってる」


 宮中のざわめきにいつまでも気づかない訳はない。ただ、本件には雫那は直接関係なく、なるべく遠ざけておきたい。当事者が多くなるほど、問題の解決は遠ざかる。


 医務室に着くと、治療の最中だった。癒符師と呼ばれる医療従事者が三人、泰斗を囲んで治癒魔術を施している。まだ少年と言っていい体が、細く小さく見えて、九垓は眉をひそめた。足元では舞連が祈りを捧げていた。


「状態は」

「運ばれてきた時は低体温で一時危なかったですが、持ち直しました。頭を打っているようで、流血が見られます。止血しましたが、脳機能の異常を調べてる所です」

「分かった」


(最悪の状況は避けられたか)


 九垓はふう、と重い息を吐く。そして舞連の背を擦った。


「姉上、命の危機はひとまず去ったようです」

「ええ……」

「そこに座っていると体を痛めますよ」

「目覚めるまで、ここにいます」


 九垓は説得を諦め、医務官の一人に毛布を持ってくるように伝える。把南と共に部屋を出て、次の行き先は、美音の所だ。


「癒符師が在中の日だったのは幸いだったな」

「本当に。不在の日であったらと思うと、背筋が冷たくなります」


 導士の中でも、癒符師の適性がある者は少ない。癒符師は需要に対し、いつも不足している。王宮の医務室にいつも癒符師が控えているわけではない。一月のうち、五日程は不在の日があった。



 九垓は美音の部屋につくと、ノックもそこそこに扉を開けた。 


「美音」

「兄様……」

「何があったか説明できるか」


 美音は頷いた。


「二人で川の(ほとり)を歩いてたんです。そうしたら、急に泰斗の足場に穴が空いて、あっと思った時は、あの子は既に川の中に身を落としていました」

「その後は?」

「護衛の者に、すぐ連絡しました」

「……そもそも、お前は監視がついていただろう。泰斗に会いに行った時はどうした」

「撒きました。鬱陶しくて」


(リュウを外したのがここで効くか……)


 九垓は内心、頭を抱えた。実際に、ズキズキと痛みを感じ出していた。美音は、幼い頃から魔術の造詣が深く、九垓には及ばないものの、舞連や雫那とは比べ物にならない腕がある。急ごしらえの監視では意味をなさなかった。


「なぜこんな夜中に泰斗と会っていた」

「数日前、二人で話したいと声かけられたんです」

「こんな夜中になったのは」

「日中に私たちが二人になれるところなんてありません」

「それはそうだな。昨晩にしたのは」

「監視の手が一番薄いと予想して」

「分かった。夜中に川の畔に行く必要はあったか? 暗がりの中では危険だろう」

「宮から近く、灯りがなくて、門番の目もない所となると、一番良かったんです」


 美音の説明は淀みなく、九垓は納得した。が、問題は、そう思わない者たちがいるということだ。九垓は眉間の皺を深く刻みつけたまま、「今日は部屋から出るなよ」と言って、美音の所を後にした。


「今日はお休みになられては。泰斗様の容体が悪化するようでしたら、すぐに」

「ああ……」


 明日からの事を思い、憂鬱になりながら、九垓は寝室へ戻った。




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