146話
「おい」
「ぎゃっ!?」
「……うるさ」
「!……、ヒコトさん……?」
「別れたんだって? 遅かったな」
「……嫌味言いに来たんですか」
久々に見たヒコトは、相変わらず気怠そうにしている。最後に会ったのは、九垓から任務を言い渡された時だ。
「あれ、スラジに行ってたんじゃ」
「もう終わった」
「えっ、じゃあ成功したんですか!?」
「それをお前に伝える権限は俺にない」
「そうですか……」
今度九垓に聞くしかない、と考えて、思い留まる。
(もうリュウを頼れないんだ……会いたくても、どうやって)
ヒコトをちら、と見て、桃凰に言われたことを思い出す。
『レナが頼った時、アイツがちゃんと力になってくれるかは怪しい』
(翠夏さんに聞いてみよ)
「何だよその目は」
「いえ、別に……あの、何故ここに」
「監視」
「ああ……」
(でも、前はうるさかったから出てきたんでしょ。泣いてもないし)
「…………昔」
「はい?」
「カンシュタットが統一する以前、あの大陸は戦乱の世だった。トビメクという国の王は、かなり小心者だったが、その癖プライドが高く、隣国の挑発に乗って戦争することになった」
突然、長文をぺらぺら喋り倒すヒコトに、目を丸くする。
「ところがいざ国境に砲撃を撃ち込まれるとビビりにビビって、開戦三十分後に降伏したんだと」
「三十分!?」
「そんなに臆病なら最初から戦争するなって話だ」
間抜けな王様の話に思わず笑った玲奈は、ハッと気づく。
(もしや、私を励まそうと? いやいや、あり得ない。何が狙いだ)
じーっと見つめる玲奈に、ヒコトは舌打ちした。
「何だ」
「どういう風の吹き回しかなと」
「折角気遣ってやったのに随分だな」
玲奈は今度こそ目を丸くする。ヒコトが玲奈を、気遣ったと言っている。
「……そのまま信じるわけじゃないですけど、ありがとうございます」
「別に」
「…………」
これ以上粘っても進展はなさそうだ。真意はどうあれ、折角レア人物が近寄ってきてくれたのだからと、ミーハー気分で質問してみる。リュウのことから、気を反らしたいというのもあった。
「ヒコトさんて恋愛に興味」
「ない」
「ですよね」
食い気味に返ってきた。
「趣味とかあります?」
「あるように見えるか」
「分からないので聞いたんですけど」
「……静かな場所を探すこと」
「あー」
喧騒を嫌う人物らしい答えだった。
「仲良い人いないんですか? 首護隊の人たちとか」
その質問には、否の答えさえなく、スルーされた。
(居るわけなかったか)
「群れる意味が分からない」
「気心知れた人と一緒にいると、楽しいですよ」
「それで裏切られて、傷付いてるんだろ」
「うっ……一瞬忘れてたのに」
「そりゃ悪かったな」
ヒコトは玲奈が離れるまで、ここにいるつもりのようだった。二人の会話は途切れつつも、着実に時計の針を進めていった。




