143話
その夜、仕事を終えて部屋で寛いでいるとき。ノックの音に戸を開ければ、焦がれた相手が、現れた。
(っ……リュウ)
玲奈を見下ろす瞳の色を見て、玲奈は悟った。
(駄目だ)
「呼んでるっていうから来たけど」
「……」
「なんもねえなら帰っていいか」
「っ、待って」
声も、低く、冷たかった。それに怯えながらも、このチャンスを逃すわけにいかないと、腕を掴んだ。リュウは玲奈に触れられたところを嫌そうに見る。
「私、何かした……?」
「別に」
「じゃあ、何でそんな怒ってるの。この前会った時と、リュウの態度、全然違う。私たち、付き合ってるんだよね……?」
「……」
玲奈の縋るような想いは、バッサリと切り捨てられることになる。
「もう冷めた。それは今日限りで終わりだ」
(冷め、た……?)
「ユランと、付き合うの」
「……そうかもな。もうお前の監視は外れたし、振りを続ける必要もない。……行くわ」
「ぁ……」
風を切るように、玲奈の横を通り過ぎる。溢れんばかりの涙に気づいてる筈なのに、全く、目にもくれずに。
(……これで、終わっちゃうんだ……)
元々、永遠など望めない恋だった。でも、浮かれきっていた玲奈は、呆気なく地に叩きつけられた。それは強烈で、暫く、浮かび上がることができなさそうだった。
数日後、持ち場に行くと、ひそひそと囁き声が玲奈に突き刺さった。
(何)
「こっち」
「フミノ!」
力強く腕を引いてくれる存在に、ホッとする。人の輪から外れた所で、フミノは今朝のざわめきの理由を教えてくれた。
「リュウとユランが、付き合ってるんじゃないかって噂が出てる。昨夜、密会してたのを目撃した奴がいるみたい」
「……」
「レナ……、知ってたの?」
「付き合ってるってのは今知った」
「いや、それは二人が言った訳じゃないみたいだけど」
「でも、時間の問題なんでしょ」
玲奈は、なるべく平静を装うとして一定のトーンで話す。フミノは痛ましげに見つめた。
「まだ、分かんないよ。あんたが言ってくれたことじゃない」
「……私は、リュウに直接、聞いたから」
「え……もう、別れたの?」
「うん」
「……そっか」
フミノは彼女にしては珍しい、何を言うか迷うように口をもごつかせたが、結局何も言わずに、ただ、玲奈に寄り添った。




