141話
次いで、リンファに質問する。
「絆ができたってことは、逆もあるの? その子に危害が及んだら、私に」
「いいえ。見える糸は、一方だけ」
「そうなんだ?」
「今見る限りは。ただし、今後のことは分かりません。赤子からレナさんに糸が伸びることも考えられます。片方の糸が張られた以上は」
「その、糸っていうのがイマイチ分かんないんだけど」
「魂は血肉で象られ、意志の糸がぐるぐると巻かれてるのです。今、レナさんの糸が、胎児の魂に巻きついて、張られました」
玲奈は赤黒く脈打つハートに、糸が絡みつくのを想像した。あまり綺麗なイメージではない。そして、胎児からの糸も張られたら、と考える。
「あの、蘭蒼さんが落ちてきたのって、事故ですか」
「いいや。残念ながら」
「……狙われたんですか」
「不幸にも、僕の子を宿してるというだけでね。無事産まれたら、直接手を下すリスクはぐっと減るんだが」
「どういうことですか?」
「王の子は産まれてすぐ、安冠という儀礼を施されるんだ。安冠は、地神の恩寵を賜る儀式。それを経た子を殺せば、子孫代々に災が及ぶ」
それは伝承の一種でなく、実際に起こり得る災厄として信じられているものだという。だからといって、産まれる前なら襲っていいとは勿論なりえないが、それだけ王太子の誕生には、権力の変遷が付いてくるということだ。
「ただ、産まれたら安心というわけでもない。僕の子供が育つには困難があると予言されている。実際、息子は産まれて間もなく病にかかり、息を引き取った」
九垓はさらりと言ってのけたが、玲奈は息を呑んだ。
「レナと命に縁が結ばれたと聞いて最初は大事だと思ったが、むしろこれは、好機かもしれない」
「え……」
「きみはこの地までやってきた、過酷な運命を生き伸びる生命力がある。その力が、我が子にも加護をもたらしてくれるかもしれない」
「……そんな力は」
「私も同意です。レナさんとの糸は、その子にとって良縁となる予感がします」
「……」
リンファの言葉を受けて、九垓は玲奈に笑ってみせた。
* * *
その事件から数日後のことである。夕食後に部屋に戻る道中。廊下の脇道からよく知った声がして、玲奈はハッと顔を上げた。
(リュウ?)
声のした方に小走りで進んでいく。期待に、既に口角が上がっている。玲奈の部屋とは別の方に折れ曲がると、予想通り、お目当ての人物がいた。人気のない、行き止まりの踊り場だ。声をかけようとするも、その前にいる人物を見て、ぴたりと足を止め、壁に隠れた。
(……ユランだ……邪魔しない方がいいかな)
そう思っても、久しぶりに会えたリュウの姿に、足を引き返すことを選べなかった。その選択を、後悔することも知らずに。




