140話
桃凰と二人きりになった。彼と会うのは、初めて会った日以来だ。
「大変だな、きみは」
「え?」
「厄介ごとが次から次に飛び込んでくる。気が休まらないだろう」
「あはは……まあ、否定はできないです」
「リュウとも会えてないんだろ」
「……はい」
「翠夏を定期的にきみの部屋に行かせるようにするから、困ったことがあったらあいつに言ってくれ」
「ありがとうございます」
有り難い申し出だが、それだけ、リュウは長く玲奈の前に現れないということなのだろう。ちょっと、……いや、結構気落ちした。気を取り直すように尋ねる。
「あの、雪璃さんは全然話したことがないんですが、どんな方なんですか」
「素っ気ないけど、悪い奴じゃないよ。無口だからお喋り相手には向かないが」
「なら……ヒコトさん、は」
「あー……アイツも無口という意味じゃ雪璃と近いが……手助けを期待できる奴じゃない。頼るならヒコト以外にしときな」
「……一度、助けてもらったことがあって」
玲奈は女子たちに絡まれた時のことを話した。
「それは言葉通り、その子たちの声が煩わしくて止めに入ったんだと思う」
「そうですか……」
「任務がある限り、きみを守るということは信頼していいが、それはレナの身に危険が及ぶ時に限る。レナが頼った時、アイツがちゃんと力になってくれるかは怪しい」
頷くと、丁度、九垓たちが戻ってきた。
「中々、大変なことが起きてしまった」
九垓は大袈裟に手ぶりで示した。玲奈はぎくりと身を縮こませる。
「悪い話ですか」
「どう思うかは君次第。とにかく、先ほどの件、レナに話さないわけには行かなくなった」
「……」
九垓は着席すると、早速、玲奈に事情を聴かせだす。
「きみが助けてくれた蘭蒼は、私の子を妊娠している。レナのおかげで、腹の子は無事だ」
「妊娠……、良かった……」
事は思ってるよりずっと重大だった。玲奈が抱きとめなければ、大事に至っていたかもしれない。
「リンファの先見では、助けたことによって、レナと赤子に、絆が出来たという」
「絆?」
「レナさんは赤子の命をお救いになり、魂に糸が張られたのです。レナさんの身に危険が迫ったとき、かの命にも危機が及ぶでしょう」
「……私が死ねば、その子も死ぬってこと?」
「ええ」
「……その子って、王太子なんですよね」
「そうだ。これが事実なら、僕はきみを守り続ける必要がある。スラジにバレたら逃がしてあとはご自由に、とは行かなくなった」
玲奈は後ずさった。
(私、このまま監禁されるんじゃ)
守るとは都合の良い言葉だ。閉じ込めて見張っとくことが、玲奈の身の安全を確保するのに一番効率が良い。
九垓はその思考を読んで首を振る。
「国に閉じ込めるつもりはないよ。僕は極悪非道な権力者じゃないから」
「……」
(信じていいの……)
「身の危険というのが何を指すかも分からないし」
「はい。レナさんの意思の自由が奪われた時点で、魂の糸は反応するやも」
リンファがそう言うなら、九垓は強行はできない。玲奈はひとまず安心する。
「今後きみは元の世界へ戻るべく、スラジの反王政勢力と接触する必要がある。となれば、うちの護衛をつけるしかないね」
「護衛を……」
それは、玲奈には有り難い話だ。
「スラジに私の居場所が胡王国だとバレたときも、ですか」
「元々、その時は僕の護衛をつけて行かせようと思ってたよ」
「え」
「国家権力から一人で逃げ切れるとでも?」
「いや……その時は見放すみたいなニュアンスだったかなって」
「僕は非道な人間じゃないってさっき言っただろう」
「……ありがとうございます」
正直、その言い振りには胡散臭さを感じたが、玲奈は黙って頭を下げた。




