139話
九垓は状況を把握し、蘭蒼は自室へ、玲奈はリンファの滞在する部屋へ行かせた。彼女の部屋には強固な魔力を張っているし、護衛も付けている。今回の事件は玲奈には関係ないが、念には念を入れよだ。自身も直ぐに蘭蒼の元へ向かい、無事を確かめる。
「申し訳ありません、陛下」
「今日出席を命じた僕の失態だ。きみは先日の宝穫祭にも出なかったから、不在が続けば怪しまれるかもしれないと思ってね。……結局、遅かったわけだ。もっと護衛を付けるべきだった」
(といっても、人がいないんだよな……)
九垓の信頼に足り、腕の立つ人物。どちらかはいても、二つを満たす者はそう多くない。
(やはりリュウの封印を……いや、それは慎重に)
深刻そうな九垓の面持ちに、蘭蒼は自責の念から俯いた。
「……きみに落ち度はないと伝えたばかりだが?」
「すみません……」
落ち込む彼女を優しく抱き寄せ、額に口づけを落とす。蘭蒼は九垓にそっと身を預けた。
「なぜ、私が子を授かったと」
「侍女の口は止められない」
蘭蒼の体調が悪そうだ。吐き気があるようだ。それだけで、妊娠を疑うには十分。焦香魚で様子を見て、怪しければ後を付ける。
「犯人を突き止める手立てはないのでしょうか」
「向こうが魔力を使わない限りは難しい。それは相手も分かってるから、きみを突き落とそうとしたんだろう」
(それに、突き止めた所であまり意味はない)
蘭蒼の身を危険に晒した犯人は、後宮にいる姫たちの、後見人たる貴族の誰かしら。そして、誰かを突き止めたとて、いずれその次が出てくる。いたちごっこなのである。
王族・貴族の境界は曖昧で、正黄街の外に居を構える貴族と婚姻関係を結び、外に出ていった者も多い。そういった者たちが、再び権力の中枢たる場所へ戻りたいと、日々画策している。
王族と血の繋がりがある者を処分するといえば、内郭で反発が起きる。それは混乱に繋がり、やがて九垓自身の首を絞めることになる。
「こうなっては、公表して堂々と護りを固めるのが最善だ」
「……はい」
「怖い思いをさせてすまない。子のため、国のために、暫く頑張ってくれるか」
「勿論です、陛下……」
二人は静かに、長く、口づけを交わした。
王と言えど、九垓の思うままに国を操れるかといえば、そんなことはない。即位してから、身に沁みていることだ。
(それでこそやり甲斐のあるというもの)
九垓は蘭蒼の警護を雪璃と翠夏に任せると、巻き込まれた形になった、玲奈の元へ向かった。
「レナ」
「あ……こんにちは」
「巻き込んでしまい悪かったね。怪我は?」
「全く」
「それは良かった」
九垓はいつものように飄々と現れ、深緑の髪をさらりと揺らす。
「事の次第はうちの内紛だ。レナの事情とは関係ないから、そこは安心して」
「そうなんですね」
それ以上は語る気はないようだ。玲奈としても、自分に関係ないならわざわざ首を突っ込む気はない。
しかし、待ったをかけたのはリンファだった。
「いいえ、レナさんは関係大有りですよ」
「そういえば、何か先見があったとか」
九垓は詳細を桃凰へ尋ねた。
「はい。リンファ殿の言うことには、レナの体に新たな芽吹きが渦巻いている気配がある、と」
「新たな、芽吹き」
「その芽吹きとの間に、新たな運命が結ばれています。レナさんには、事情を説明すべきかと思いますが」
九垓は一拍置いた。
「分かった。まずは僕と話そう」
リンファと九垓は、二人で席を離れた。




