138話
その後、翠夏は仲間に連絡を取ったようで、同じく首護隊の一人、桃鳳がやってきた。蘭蒼は翠夏の警護で、自分の宮へ戻っていった。玲奈は桃鳳の引率で、リンファの所へ連れて行かれた。
「むむむ」
「わっ、な、何」
顔を見た途端に、リンファはずいっと玲奈へ顔を近づけた。
「何やら奇怪な運命が動いた気配がします。何かありましたね」
「運命?」
「この前あなたにお会いした時には無かった、新たな芽吹きが今、あなたの体に渦巻いています。まだ新しい」
(もしかして、さっきの)
「お聞かせください」
「……」
(私はいいけど、勝手に話すの不味いんじや)
先程、翠夏が口ごもるのを見たばかり。後ろにいた桃凰に視線を向ける。
「少し待ってもらおう。直に陛下もお見えになる」
リンファは頷いた。少しの猶予ができ、玲奈は先程の出来事を反芻する。
(あの人が飛び出てきた時、体が引っ張られるみたいな感じがあったような)
反射的に人助けをした、という言葉だけでは収まらない。あの人を助けろと言わんばかりに、何者かに玲奈の体を操られたような。
(貴類の力が影響した? それか、もしかしたらお母さんの……)
九垓がそれを聞いたのは、中郭の書室で官吏から諸々報告を受けているときだった。
「翠夏から救援伝号、三番!」
「行け」
すぐに首肯して、向かったのは桃凰。突然の首護隊の登場に、場が静寂に包まれた。
「今日は解散だ」
「はい」
紅那は心得ていて、すぐに部下たちに指示を出す。
(さて、何があったか)
首護隊からの伝号。それは緊急時に発せられる魔力による伝令。緊急性の高い順に一番から五番までに振り分けられる。
桃凰はすぐに到着したようで、とりあえずの安全を確保すると、ことの子細が記された紙が窓から入ってきた。九垓にしか読めないように細工されている。九垓はそれを斜め読み、舌打ちする。
(……漏れたか)
* * *
今日は、内郭で香彩宴という会合が開かれていた。後宮に暮らす王の妻たちが三カ月に一度集う語らいの場だ。そこは姫たち、そしてその後ろ盾の勢力争いの場でもあった。
香彩宴に出席した蘭蒼の椀に、焦香魚が出された。高価な海魚の叩きに生姜を和えたもので、ご馳走として知られるが、妊婦には毒とされ、食すべきでないと言われている。
それが出された時点で、蘭蒼の妊娠が疑われていることは明白だった。
(どこから……いえ、今は考えても仕方ないこと)
蘭蒼は食べた振りをして席を立ち、手洗いに向かった。そこで何者かに、後ろから強く背を押された。
(あっーー)
何とか腹は庇った彼女は、膝を擦りむきながらもすぐに立ち上がり、一目散に逃げた。人気のない所へ行くべきでは無かったが、その時は気が動転し、とにかくここから離れなければと、その一心だった。
走って、草むらへ飛び込んで、その続きがないのを悟ったのは、再び背中を押されて、足が宙を切ってからだった。
(駄目……)
子供を、助けられない。そう諦めた時、蘭蒼のもとに飛び込んできたのが、玲奈だった。




