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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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137/162

137話

 時間の感覚はなかった。唇が離れた時、玲奈の呼吸は短く上がっていた。


「悪い、もう行かねえと」

「……ん、分かった」


 リュウは恥ずかしがってるのか、玲奈と目を合わせない。再び担がれて、屋根の下に着地する。示し合わせたように、翠夏が待っていた。リュウはそれを見届けると、すぐに背を向けて去っていく。


「ふーん、随分いい感じだったようね〜?」

「えっ? ……えへへ」

「あーいいなー! 私も彼氏欲しー!」




(私、いつの間にかリュウのこと好きになってたんだなぁ……)


 好き。その言葉は、自然と口をついて出ていた。口に出すと、ますます気持ちが溢れ上がっていく。翠夏と帰る道すがらも、玲奈の心は暫く、ふわふわと浮ついたままだった。

 




 玲奈は再び、内郭に呼ばれていた。なんでも、リンファが会いたいと言っているらしい。それを伝えに来たのはリュウではなく翠夏で、内心がっかりしたのは秘密だ。

 

 翠夏に先導されながら、内郭を進む。途中、少し小高いところに茂った花々の中から、ガサガサと物音がして「ん?」と視線を上に向ける。


 玲奈が目を向けた丁度その時、人影が飛び出してきて、上から落ちてきたのを、玲奈の目はスローモーションのように、ゆっくり捉えた。


(あっ……!)


 体が反射的に動いて、その人の下に入るように、咄嗟に抱きとめていた。女性の綺麗な顔立ちが、ひどく驚いたように玲奈を間近で見つめて――。



「いっ! たっ、たぁ……」

「レナちゃん!?」


 ドサァっ、と潰れた玲奈に、翠夏が慌てて駆け寄る。そして、玲奈の上に倒れた人物を見て、息を止めた。ここにいてはならない人物だったからだ。


 その女性は起き上がり、玲奈と翠夏を交互に見た。その目は、怯えの色が滲んでいた。彼女は、逃げてきたのだ。翠夏は咄嗟に判断し、二人を立ち上がらせた。


「私は首護隊の一員です」

「首護隊の……」


 彼女は、翠夏の顔を知らなかったようだ。信じて良いのか少し迷いを見せた。しかし、後ろから足音がして、ぎくりと身を震わせると、翠夏に頷いた。


「こちらに」

「はい」

「えっ、なに」

「レナちゃんも早く!」


 玲奈は理由も分からぬまま、翠夏に腕を引かれ、来た道を戻ることになった。



(この人、誰だろう)


 玲奈が咄嗟に助けた彼女は、上等な服装をしている。布の細かな輝きが、光に照らされて上品に煌めいていた。


 翠夏はやがて立ち止まり、内郭の壁に生えている草花を掻き分けると、奥にあった扉に手を翳した。ブゥンと音がして、扉が開く。玲奈の部屋と同じ、特定の人物の魔力に反応して開く仕組みだろう。


(隠し扉……)


 翠夏は二人を素早く中へ通し、辺りを見回して戸を閉めた。閉められると真っ暗になり、何も見えない。


「翠夏さん」

「ごめん、今明かりつけるよ」


 玲奈の不安げな声に、翠夏が応える。明かりが灯り、通路がいくつかに分岐し、延びているのが分かった。


「こちらに」


 翠夏が一番右の道を行く。二、三分歩くと、扉が現れ、また翠夏が魔力を翳して開けた。


「お待たせしました。中へお入りください」

「はい」

「……ここは?」

「首護隊の控室みたいなものかな。今は誰もいない」

「へぇ……」


 中は殺風景で、テーブルと椅子くらいしか置かれていない。翠夏は女性を椅子へ座らせると、「お怪我は」と尋ねた。


「大丈夫です。彼女が、助けてくれましたので。お礼が遅くなりましたが、ありがとうございました」

「いえ! ご無事で良かったです!」

「あなたは?」

「え、っと」

「下働きの者です。少し訳ありなのですが、蘭蒼様にお伝えしてよいかは、私の判断では」

「ええ、承知しております」


 翠夏は頭を下げ、今度は玲奈の方を向いた。


「色々気になるだろうけど、そういうわけで今は何も言えないの」

「分かりました」


 気になることはあるが、我儘を言って困らせるはずもなく、玲奈は大人しく頷いた。



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