136話
「……どこ行くの?」
「向こう」
「それじゃ分かんないよ」
「すぐ着く」
枢晶宮の外に出ると、リュウは腕を離す。すぐに、背中に手を回し、足を掬われた。
「ぎゃっ!? なっ、なに」
「掴まってろ」
「わーっ!?」
玲奈を担ぎ上げたリュウは、軽々と飛び上がり、枢晶宮の屋根に飛び降りると、そっと玲奈を降ろした。
「びっ、くりしたぁ……」
「そんな高くねえだろ」
「いやいや、結構高いって」
そう言うが、二十メートルはありそうだ。下を見て体を震わせる。幸い、屋根の中心は平で滑り落ちることはなさそうだ。真ん中に寄れば怖くはない。
「そっちじゃなくて、向こう見ろよ」
「え?」
リュウが指差した方向は、外郭。夜空に、大きな火柱が立っていた。
「わ……すごい」
完全に日が落ちる中で、あそこだけ明るく照らされている。小さな火花が散って、暗闇にキラキラと輝いた。
「あれ、お祭りの?」
「そう。気分くらいは味わえるだろ」
視線の先では、三十メートル程の高さまで積み上がった藁の塔に火がつけられ、轟々と燃え盛っている。
「……綺麗」
「そりゃ良かった」
玲奈が喜ぶと思って、ここに連れてきてくれたのか。
「あの、ありがとう」
リュウは軽く頷いた。視線を戻せば、藁の塔を取り囲むように人々が輪を作り、火へ祈りを捧げている。
「……それ」
「なに?」
「その……催服」
「あ、うん。着せてもらったの。どう?」
玲奈はくるっと回った。薄黄の催服が、遠くの火に照らされる。
「……うん」
「なにそれ、似合ってるくらい言えないの? こんな布地が」
少ない服着て、と言おうとして、ハッと止まる。
(っ、めっちゃ露出してるんだった!)
ぴた、と止まり、なるべく側面に手を沿わせつつ、リュウから距離を取る。
「んだよ、急に」
「いや……こんな肌出てる服着たことないから……恥ずかしくて」
「……皆着てるから、気にすんな」
「私は気にするから!」
「……俺の為に着たんじゃねえの」
「えっ!?」
「違うんなら、悪い。早とちりした。見ねえよ」
リュウは顔を背けた。それを引き留めるように、玲奈の手があがった。
「リュウに、見てもらいたかった、よ」
「……今は? 見ていいの」
「……いいよ」
勇気を出した玲奈に、リュウが振り向く。肌にも視線が刺さる気配を感じた。
「感想は?」
「……いいんじゃね」
「本当?」
素っ気ない言葉だったが、玲奈は喜んだ。
「そこ、浮いてる」
リュウは腰元を指差した。服は、隙間が出来ていた。昔のものと言っていたが、それでも翠夏のサイズは所々玲奈と合ってない。
「貧相な体だから、しょうがないの」
「いや、そうじゃなくて……」
「……なに」
「……、片手で掴めそう」
「そこまでじゃないでしょ」
玲奈は笑ったが、リュウの手が腰に回って、その温度に囚われた。剥き出しの脇に、指が触れる。
「あ……」
ドキドキドキ、と心臓の音が大きく響いた。リュウにゆっくりと引き寄せられる。
「似合ってる。……目、離せない」
「リュウ……」
遠くの火が、二人を照らす。リュウが自然と玲奈の手を取って、指を絡めた。熱に浮かされたように、玲奈はリュウを見つめた。
「顔赤い」
「……、暗いから分かんないでしょ」
火の灯りは大きいが、遠い。玲奈の肌の色まで見えないだろう。
「俺、目良いから。見える」
「……そう」
「何でそんな赤くなってんの」
リュウはまた一歩、距離を詰める。玲奈はとうとう降参した。
「……リュウが、好きだから」
「っ……、レナ」
「大好き……」
「……俺も」
直前まで目を見つめ合わせたまま、口づけが落とされた。玲奈が瞼を閉じたと同時に、リュウの腕の力が強くなって、ぐっと引き寄せられる。もう片方の繋いでた手も離されて、両手で腰を抱かれた。深く、熱い、キスだった。
内側から、想いが溢れてくる。好きだと叫びたくなる欲求。玲奈は、確かに恋に落ちていた。




