134話
時は少し流れ――
「何か慌ただしい?」
「今夜から、宝穫祭だから」
「あ、今日始まるの?」
二週間程前。やたら大きな物を担いで移動する男性たちを見て、フミノに問うたところ、「もうすぐお祭りがあるのよ」と教えてもらったのだ。それが明日行われるらしい。
宝穫祭は作物の実りを、天地に感謝する催しで、一週間にわたり続くという。この間、正黄街はどこもお祭り一色。外郭には露店が立ち並び、王都の外からも沢山の人が訪れる。
しかし、玲奈は見に行けず、お留守番である。当然といえば当然だが、人混みの中では、警護は難しくなる。
「おみやげくらい買ってくるよ」
「えっ、本当!?」
「甘い物がいい?」
「うん! いくつでもいけるよ!」
「あのね。両手で持てる分しか無理だから」
夕方になると、中郭はまるっと人が消えた。皆、いつもとは違う見慣れない服に着替えて、お祭りに出て行った。脇がざっくり空いた服で、武官の官服に似ていたが、黒一色ではなく、色とりどりの花や草柄に染められていた。初めて見た時は面食らった服だが、この国の伝統のもののようだ。
(空っぽだ……ちょっと寂しいかも)
自室に戻りながら、玲奈が廊下に視線を落とした時。
「こんばんは」
「ひっ!?」
「あ、驚かせちゃったかな?」
かけられた声に飛び上がり後退りする。窓からひょっこり顔を見せたのは、一度だけ挨拶した、
「翠夏さん?」
「そう! 覚えててくれてよかったー」
青い髪を揺らした彼女は、首護隊の一人だ。彼女が今日の護衛なのだろう。
「今日は人いないからさ、話しかけてもいっかなーと思って」
「嬉しいです。その、ちょっと寂しかったので」
「そうだよね~、皆遊びに行ってるのにさ!」
「でも、翠夏さんも行けてないですよね。すみません、私のせいで」
「私は人混み苦手だからむしろラッキーよ! 原則、官吏も下働きも宝穫祭は行かないとだからさぁ」
それは本心なのか、玲奈に気を遣って言ったのか。分からないが、玲奈は翠夏に良い人だなあ、と好感を持った。
「レナちゃん、部屋行くの? 夕飯まだでしょ?」
「あとでフミノたちが買ってきてくれる予定で」
「ん、そっか」
「早めに戻ってくれるみたいで。折角服も着替えたんだし、ゆっくりしてきてって言ったんですけど」
「催服ね」
「可愛いですよねー」
「お、興味あるならレナちゃんも着てみる?」
「えっ、着れるんですか?」
「私のお下がりでよければ」
「わー、着たいです!」
「よし! じゃあおいで」
翠夏の提案に、ぱあっと笑みが咲く。後をついて行くと、翠夏は玲奈の部屋より手前で折れた。
「首護隊の皆さんも、部屋は同じ建物の中なんですよね」
玲奈の部屋は、元はリュウが使っていたものである。
「そう。毎日使うわけじゃないけど……ここ」
「入っていいんですか?」
「どーぞー」
「おじゃましまーす」
(わ……物が、たくさん)
「いやぁ、私片付けるの苦手でさー。ここに戻ってもゆっくりできないし」
「大変なんですね」
「そーなの! 雪璃はサボってるだけでしょ、って言うけど」
ふふ、と小さく笑う。クールそうに見えた雪璃は、その通りの性格のようだ。
「んーっと……おっ、あったあった! この辺がレナちゃんのサイズかなー」
タンスを引っ剥がす勢いで漁っていた翠夏は、お目当てのものを見つけ、玲奈に差し出した。祭り事などで着用する、催服。淡い黄色に、白い小花柄が散りばめられたもの。濃紺に、火花を散らしたもの。白地に、紫の桔梗が大きくあしらわれたもの。
「どれがいい?」
「えっ、全部可愛い! どーしよ……」
「こういうの選ぶの楽しいよねー。可愛いの見かけるとつい買っちゃってさあ」
(やっぱり、翠夏さんお祭り好きなんじゃないかな。申し訳ない……)
そう思っても、護衛を外してくださいとは玲奈が言えることではないし、どうしようもない。翠夏はそんな玲奈を知ってか知らずか、明るい笑顔で、玲奈の体に布地を当てる。
「んー、レナちゃんは暗い色より、黄色とか明るいのがいいんじゃない?」
「本当ですか?」
鏡の前で、黄色の催服を当てる。言われた通り、この中だと一番自分に合ってるように思えた。
「じゃあこれがいいです!」
「よーし! んじゃ、脱いでー」
「え、自分で」
「初めてでしょ? 着方があるからさぁ。ほらほら」
「ひっ、あ、あの、教えてもらえたら」
「それは面倒い! さっさと脱ぎなさい!」
「あっ――」
年上の美女に裸にされる羞恥プレイに見舞われながら、初めての催服に着替えた。




