133話
(やたら志陽が絡んでくる)
ここ一、二週間、玲奈が一人の時を狙ってすっと現れては、やたらと笑顔を振りまき、スマートに去っていく。何のつもりだろうか。リュウに相談したいのだが、昼だけでなく夜も全く顔を見せない。
(任務としか聞いてないけど、遠くに行ってるのかな)
「どうしたのよ、暗い顔して!」
肩を叩かれ後ろを振り返る。その先の姿に、自然と笑顔になった。
「っナシュカ! トキも! わー、久しぶり!!」
「しょっちゅうすれ違ってるだろ」
「挨拶だけじゃん、仕事中はゆっくり喋れないし!」
「顔は見てるけど、喋るのは結構久しぶりだよねー」
「ま、昼も被らなくなっちまったしな」
「そうそう! 今日は勉強は?」
「たまには息抜きしないとねー」
持ち場によって食事の時間は微妙に違っていて、胡王国に着いた最初の何回かしか、二人とは会わなかった。夜はというと、二人とも官吏になるための勉強をしているので玲奈とお喋りする暇がないのだ。
「で? 元気ないじゃない」
「あー……」
玲奈は理由を言おうか迷ったが、おずおずと白状した。
「リュウに、最近会えてなくて……」
「へーーー? リュウに? それでそんなへこんでるの?」
ナシュカがニヤニヤと玲奈に体当たりしてくる。体を揺さぶられ、目を逸らすも顔をぐるんと覗き込まれる。
「偽の恋人に会えないだけでそうなるとは思いにくいけどな〜」
「…………、その、本当に、付き合い始めた、から」
「わーーっ! やっぱり!?」
はしゃぐナシュカと反対に、トキは顔を顰めた。
「……大丈夫か」
「なーに、反対なの?」
「だってお前……」
トキは口ごもった。ナシュカには、玲奈の詳しい事情は伝えてないからだ。トキの言いたいことは分かった。
「心配してくれてありがと。自分でも流されてるかなと思う所はあるんだけど」
「おい」
「でも、ちゃんと考えてるよ。私はずっとここにいられるわけじゃないってこととか」
「……そうか」
トキは一旦引くようだ。口を閉じていたナシュカは、それを見て、玲奈に腕を絡ませた。
「わ」
「私はいいと思うわよ。リュウとどんな感じなのよ! 恋バナしよ!」
「えっ、恥ずかしいよ!」
「会えなくてめそめそしてるんでしょ! そんな時こそ惚気てなんぼよ」
「の、ろけるような話なんて」
「アイツ、好きとか言うのか」
「えっ」
まさかの、トキが恋バナに参戦してきてびっくりする。顔を見つめると、「気になって」と冷静に返される。
「直接は言われてないかな」
「えーっ、つまんない男ね」
「付き合おうってのはあいつから?」
「うん」
嘘を付くのが嫌だと言ったら、本当に付き合うかと言われて。それから、好き、ではないが、そういう意味の言葉を伝えられた。
「真っ赤っ赤」
「うぅ……」
「レナはアイツが好きなのか?」
「……多分」
「なによ、多分って」
「付き合おうって言われたから付き合ったって感じで、自分の気持ちがイマイチ……」
「レナって付き合うのリュウが初めて?」
「うん」
「なら、その浮かれっぷりがリュウ本人じゃなく、恋に恋してる状態の可能性もあるか……」
「そうなのかなぁ」
「ま、焦んなくていいじゃない。本気の恋なら、その内に、この人が好きだ、って叫びだしたくなる瞬間が来るもんよ」
(叫びたくなる瞬間……)
その後も二人とたっぷり雑談して、部屋に戻る。一人になって、トキに言った言葉に考えを巡らす。
(私は長くここにいるつもりはない。早く帰りたい。例えスラジに見つからなくても、胡王国にとどまってたら帰る道は開けない。……リュウと恋愛したって、離れる日は近い……)
リュウは、九垓の護衛。今は一瞬、玲奈と道が交差しているに過ぎない。文字通り、別の世界の人間。
(好きにならない方がいいんだ)
もやもやした想いを抱え、眠りについた。




