132話
「申し訳ない……」
短い昼食を終え、そそくさと持ち場に戻る道すがら、皆に謝った。
「全くね」
「まあまあ、初めてなんだからしょうがないじゃん」
「フミノは完璧主義だからなー」
「教育係がフミノってのは辛いもんがあるよね」
「皆、優しい……」
「甘くして困るのは本人でしょ。むしろ私が一番優しい」
「なるほど……」
玲奈としては一理ある、と思ったのだが、他の皆は「厳しー」と笑った。朗らかな空気に、肩の力が抜けた。
「ここの皆は優しくて安心したよ」
「前はそうじゃなかったの?」
「風羅たち」
フミノの挙げた名前は、玲奈に絡んできたうちのリーダー格の女子だ。
「あー、なるほど」
「何か言われたの?」
「うん、一回呼び出されて志陽とか、リュウのことを……」
「うわ、お疲れ。災難だったね」
「あんま気にしないことだよ。あの子たち、新入り入るたびやってるから」
「えっ、マジ?」
「そう。志陽って優しいじゃない? 新しく来た子によく話しかけるんだけど、その度に」
(……良かった、私だけじゃないんだ)
志陽が玲奈を気にかけるのは何か企みがあると勘繰っていたが、彼にとっては普通のことらしい。おまけに、彼女たちに絡まれるのも。
「あんたはリュウと付き合ってるから、かなり目立ってたけどね」
「それは確かに」
「リュウが彼女連れて帰ってくるとは驚いた!」
「リュウってどんな感じなの? 普段女子には塩対応だけど」
「彼女には違う顔を見せちゃったりするの?」
「それやばい!」
女子たちはキャーッと盛り上がった。玲奈は恋人モードに入ったリュウを思い描く。
『レナ』
「……」
「あーっ、なんか赤くなってる!?」
「リュウも普通の男の子だったか〜」
「何思い出したの! 聞きたい!」
「聞かせろ!」
「いや、違う、何でもないっ!」
わいわいとはしゃぐ背中を、志陽が影からそっと見ていた。
夜。ユランは、枢晶宮の傍らに聳える櫓に登って、星を眺めていた。
「隣いいか」
「……何」
「何だよ、機嫌悪いな」
現れたのは、志陽だ。それを一瞥して、また星に視線を戻した。
「リュウとは話せた?」
「うん、一応」
「嬉しくなさそうじゃん」
「……嬉しいよ。噛み締めてるの」
「そう?」
その割に、ユランの表情は晴れない。
「十中八九、リュウとレナの交際は振りだ」
「……そう」
「信じねえの? 俺の見立てではかなり黒に近いぜ」
「何でそんなことする必要が?」
「レナには何か、事情がある。そこまでは掴めてないけど……リュウが側にいて見張ってるのが一番だったんだろ」
「……そうだとして、でも」
「ん?」
「リュウは……」
言葉を待ったが、その先はユランの口から続かない。膝に顔を埋めてしまった。
「俺がレナを落とすよ」
「……え?」
「表向きには振りを続けても、本当は付き合ってないって言質を取れたらそれで十分だろ」
「……なんで志陽がそこまで?」
膝に顔をつけたまま、横に顔を向けて、志陽の真意を探る。
「ずーっと片思いしてるユランが不憫だから」
「余計なお世話よ」
「本当に奴らが好き合ってるならしょうがないけどさ。そうじゃないのに失恋して傷ついてる幼馴染は放っとけない」
ユランは少し考えた。やがて顔を上げて、静かに返した。
「志陽の好きにしたら」
「ん。お前、リュウとちゃんと距離詰めろよ」
「もう、志陽に言われなくても頑張るもん!」
「あんま行き過ぎるとウザがられるからな」
「それもわかってる!」
ようやくユランに笑顔が見えて、志陽は内心、安堵のため息を吐いた。




