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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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130/166

130話

「暫く、別の任務が入った。日中はお前に付いてられねえ」  

「そっか、分かった」


 玲奈はすぐに返してから、ちょっと寂しいな、と思った。ちらりとリュウを見上げると、ぱちりと目線が合う。 


「な、なに」

「寂しいって顔に書いてる」

「えぇっ!?」

「嘘」

「えぇ……もう、からかわないでよ」


 いつものデコピンの仕返しに、肩をばしんと叩く。リュウは全く痛くなさそうに「いて」と呟く。そして再び向けられた視線が、どこか甘えを帯びていてドキリとする。


「寂しくねえの? ……俺は寂しいけど」

「っ、な、へ?」

「なあ、どうなんだよ」

「ひゃ」


 肩に、リュウの手が置かれた。腫れ物を触るように、その手は背中へ回る。リュウはほとんど、力を入れていない。でも、玲奈の体は磁石が引き合うように、自然とリュウの胸元に寄り添った。


「寂しい、よ」

「……ふーん」

「聞いといてその反応なの?」


 勇気を出して言ったのだが、と少々不満を覚える。でも、リュウの変化に、気づいてしまった。


(あ……リュウの心臓、早い)


 リュウは照れているのだ。そう悟って、玲奈まで照れが伝染った。


(どうしよ……顔熱い) 


 玲奈の真っ赤に染まっていく頬に、長い指がすっと通って、ぴくりと体を跳ねさす。リュウは、呼吸を一瞬止めて、小さく囁いた。


「……レナ」

「……えっ!?」


(聞き間違い……じゃ、ない)


 確かに、名前を呼ばれた。迷宮で、死の間際に一度呼ばれただけの名。しかも、今は覚えてないのだから、このリュウにとっては、玲奈の名を呼ぶのは初めてのはずだ。


 信じ難く、目を丸くさせる。


「……ンだよ」

「名前……」

「……呼んじゃ悪いか」

「いや、頑なに呼ばなかったのはリュウでしょ。びっくりした……」

「嫌なら、辞める」

「嫌じゃないよ! びっくりしたけど、その……嬉しい」

「……じゃあ、呼ぶ」


 玲奈はもう一度を期待して、リュウを見つめた。その視線に気づいたのか、リュウが屈んで、鼻が触れるほど、二人は近づいて。


「レナ」


 自然と瞼が落ちて、優しく唇が重なる。離れてもまた重なって、また離れて、繰り返す。玲奈の両手はいくらか高いところにある首元に回った。


「リュウ」

「レナ……」


 名前を呼ばれるだけで、こんなに体を熱くさせることを、玲奈は初めて知った。





 リュウは暫く、九垓の命で内郭にて任務にあたることになる。王族の監視――といっても、リュウには持て余すほど退屈なものだ。俺でなくていいだろ、と内心は不満すらある。美音の宮の外に座り込み、最低限の労力で彼女を見張っているも、手持ち無沙汰にくあっと欠伸が出る。


 呼び止められたのは、そんな時だった。 


「リュウ」

「……んだよ」

「やっと二人で喋れるのに、そんな言い方しなくていいじゃん」


 頬を膨らませたのは、ユランだった。


(コイツ今、内郭勤めか)


 リュウも暫くここに通い詰めだ。ユランと顔を会わせることも多くなるだろう。


「ごめん、ずっと変な態度とっちゃって。反省したから……また話してもいい?」

「やめろつっても話しかけんだろ」

「……そんなことないよ。リュウにウザがられるの嫌だもん」


 しゅんとした態度を取られると、罪悪感がわく。


(コイツ泣かせると、昔からうるせえのがいんだよな)


 幼馴染たちの中で、ユランは紅一点で、お姫様みたいな扱いを受けてるところがある。志陽なども口煩く文句を言ってきた一人だ。殊勝な態度を示すユランを冷たく突き放すことはできなかった。諦めのため息を一つつく。


「好きにしろよ」

「本当!? 良かったぁ……」

「あぁ!?」


 ユランが泣き出して、リュウはぎょっとする。


「何泣いてんだ……いいって言ったろ」

「だってぇ……、絶対嫌われたと思ったから」

「……さっさと泣き止め。お前泣かせると面倒だから」

「うん……」


 リュウは泣いているユランを見ながら、玲奈のことを考えていた。付き合っている人間がいながら、他の女と人気の無い場所で二人きり。あまり褒められたものではない。


(あいつが男とこそこそしてたらクソムカつくし)


 志陽やヒコトと二人きりで過ごしたと聞いた時、不快感が押し寄せた感覚を思い出す。


(嫉妬とかすんのか、アイツ)


 玲奈のそういう感情を見たことはない。ユランと過ごしたのを知ったら、拗ねるのだろうか。


「……なんかリュウ、楽しそう」

「あ?」

「笑ってたよ」

「……見間違いだろ」


 無意識だった。手の甲でぱっと口を押さえる。ユランは、その様子を静かに見つめていた。

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