129話
「やあ、ご機嫌いかがかな」
「兄様!」
飛びついてきた美音の頭をぽんと撫でて、その表情を窺い見る。
「部屋から出るな、なんて酷いですー! 退屈です!」
「雫那が大分お怒りのようでね」
「ちょーっと悩みとか聞いてもらってただけなのに、雫那は心が狭いですっ。何とか言ってください!」
九垓は美音を椅子に座らせる。いつも末妹には甘い態度を取ってしまう九垓だが、王として毅然とした態度を取らねばならない。
「美音、いくつになった」
「二十一です」
「もう子供とは呼べない年齢になった。王家の一員として、庇護されるだけでなく、立場に責任をもたないといけない」
「……」
「雨明には近づかないこと。雨明だけでなく、人の夫には接触しない。これは兄ではなく、王からの命令だ」
「……兄様はやっぱり、雫那の味方なんですね」
「中立な立場から見ての判断だ。お前の行動は王家の品位を欠く」
「私は雨明と恋愛関係になるつもりはないです。雫那がヤキモチ妬いて過剰に騒いでるだけです」
「お前には前科があるだろう。それを言葉通り皆が信じるのは難しい」
「……もういいです。兄様のお気持ちは十分分かりました!」
「約束できるか?」
「はいはい、分かりましたってば! もう出てってください!」
背中を叩かれ、半ば追い出されるように美音の部屋を出る。
(あれで言いつけを本当に守るかは微妙だな。首護隊を一人つけて……)
今は玲奈への警護体制に加え、ヒコトは任務に出していて不在で、動かせる駒が手薄だ。リュウは禍を封じている。実戦にはまだ出せない。
(美音の監視に割けるのはリュウしかいないか……)
戻ってきてからリュウの状態を見ているが、精神はかなり安定している。魔術を使うことに過度な恐れもない。かといって、本来の力が思うように使えない状況に、ジレンマもないという。
玲奈と良い関係を築いていることが、間違いなくその要因。しかし、彼女はあまり近い関係になってもらうのは困る相手でもある。
(ヒコトの報告では、フリではなく、本当に付き合い出したという。リュウが僕に報告しないのは以前釘を刺されたからだろうが……彼女と距離を置かせるなら今……)
「陛下、いかがでした」
「――拗ねさせた。今は身内のゴタゴタに時間を割いてる暇、ないんだけどなぁ」
「これも王のお務めです」
「……全く」
九垓は出されたお茶を啜り、束の間の休息に入った。




