122話
リュウは呆れた顔で女子たちの背中を見送る。
「これで当面は絡まれることもないだろ」
「あ、うん……ありがと」
「つーか、何だよ。庇われてたって」
「え? ああ、昨日言ったじゃん」
「言ってねえ。アイツは女が煩かったから黙らせたって言ってただけだ」
それは事実、ヒコトにしたらそういうつもりだったのだろう。すごく面倒くさそうだったし、あのタイミングで泣くなと言われた程だ。彼女たちから見れば、ヒコトは玲奈の味方をして庇ったように見えただろうが、玲奈からすると、そんな紳士な行動ではなかった。
しかし、説明しても、リュウはお気に召さないようだった。
「お前、俺と恋人になったんだよな?」
「えっ、あっ、うん」
急に言われ、驚きと照れで挙動不審になってしまった。
「じゃあ、これからは他の男に庇われんな」
「ぇ……」
「お前を守んのは、俺の役目だろ」
玲奈は赤くなって、小さく頷いた。
(彼氏ってすごい)
* * *
数日後。
「陛下がお前を呼んでる」
「え!? なんで?」
「さあな。今晩、連れてくからそのつもりでいろよ」
玲奈はリュウに頷き、緊張感に背筋を伸ばした。九垓と会うのはここに来た日以来で、数週間ぶりである。
(何の話されるかは分からないけど、質問まとめとかないと)
次にいつ九垓と会えるチャンスが巡ってくるかは分からない。リュウは以前、会いたいなら掛け合ってくれると言っていたが、言って直ぐに叶う立場の人ではないはずだ。向こうから声をかけてくれるチャンスは、有効に使わないといけない。
その日は気も漫ろに仕事をこなし、日が落ちた。リュウに連れられて行った先は、枢昌宮を離れ、内郭の入り口、幻門だった。
「えっ、ここ入っちゃいけないんじゃないの?」
「本来はそうだが、今日は陛下がお前を招いてる」
(マジ? 王宮に入っていいの?)
「それだけ機密性の高いことなんだろうが……変なことしたら首と胴が分かれるかもしんねえからな」
「ヒッ」
リュウの脅しは存分に効いた。足を震えさせながら、門を潜る。肌にヒヤッとした空気を感じ、中に入ると、外から見えていたのとは違う景色に目を開く。
「凄い花……」
「後宮の周りには絶えず花垣が手入れされてる」
日が落ち、薄暗くても花の鮮やかさは十分に目に飛び込んできた。足元から玲奈の身長より高いところまで、一面に花が咲き乱れている。
「こっちだ」
その花垣の脇を通り、左奥へ進んでいく。後宮と、王宮の間にぽつんと置かれた離れに、リュウはずんずんと進んでいく。戸の前で壁を二三度叩くと、中から男の影が現れた。
(あ、ヒコトさん)
それは見覚えのある顔だった。ヒコトは全く感情の読めない顔でリュウとその先の玲奈を確認すると、体を引いて二人を中へ入れた。リュウはヒコトと目を合わせなかったが、玲奈はそこまで気づかなかった。
中に入ると、円形の床にラグが敷かれていた。壁を見ると三つの通路があり、中央のそれをリュウは進む。紺碧の暖簾を潜り、その先にかの人物は優雅に座っていた。
「陛下、連れてきました」
「や、ご苦労。久しぶりだね。レナ」
「あっはい! ごぶさたしてます」
部屋の奥で書物を手に取っていた九垓は、それをパタリと閉じて、玲奈に手を振った。前の椅子を勧められ、恐る恐る座る。リュウは玲奈の後ろに控えた。
「ここの暮らしは慣れた?」
「はい。リュウやフミノさんに色々教えてもらって」
「彼女はここの暮らしが長いからね。頼るといい」
玲奈は軽く頷いた。
「報告だと何かと苦労もしてるようだけど、それは大丈夫?」
「え……あっ、はい」
(リュウとのことだ)
女子たちに絡まれたのも把握しているようだ。ヒコトはこの人の直轄の部下なのだから、当然かもしれない。
九垓はリュウに視線を向けた。
「お前も、もう少し気遣ってあげたら?」
「それは解決しましたので」
「全く……ま、今日はそれどころじゃないからね。お小言は辞めとくか」
(何話されるんだろ)
「無駄に時間を取らせても良くない。本題に入ろう」
玲奈は息を呑んだ。




