121話
(昨日のは……現実だよね)
翌朝、迎えに来たリュウはいつも通りに見えた。部屋を出て、食堂へ向かう道のりで、その横顔をちらりと伺う。
「ン」
「え?」
仏頂面と共に、差し伸べられた手。
「恋人だろ」
「……うん」
ぎゃーっと内心わめきながら、その手を取った。きゅ、と握り返されて、いよいよ血流が沸騰する。
玲奈には男性経験がない。彼氏いない歴=年齢。まだ高校生なので周りもそういう子は多く、生々しい経験談も殆ど耳にしたことかない。いきなりこんな、経験豊富そうな男が彼氏になって、スマートにリードされる展開に、目がくらくら廻っている。
(昨日、リュウとキスした……)
その唇を盗み見る。薄い唇を観察し、早々に耐えられなくなって、目を逸らした。
「何百面相してんだよ不審者」
「うっ……、そういうのは言わないのが優しさじゃん!」
「あんまり面白い顔してたからつい」
「もー……」
(待ってなんか、会話がカップルっぽい! 気がする!)
再び、内心でぎゃーっと騒ぐ。口に出さないだけ頑張っている方だ。
食堂まではすぐに辿り着き、朝の混み合う時間に、多くの目が二人に向いた。リュウと二人で来るのは少し日にちが空いていて、しかも二人は手を繋いで登場。好奇の目に晒される。
「ここ」
「うん」
朝食の匂いに、少し心が落ち着いた。朝は大抵、焼き魚がメインのことが多い。日本人の口によく合うメニューで非常に喜ばしい。
「頂きます」
玲奈が言う前にリュウは既に手を付けており、お椀をずず、と啜っている。茶碗を持つ手の大きさに一度気付くと、そこから目が離せなくなって、暫し見惚れた。
「……視線が熱いんだけど?」
「――ハッ! つい、いや、あの、違くて!」
慌てて弁解しようとすると、「落ち着け」と柔らかくいなされる。
(ひーっ、なんか、なんか声が甘くない!? 気の所為? 気の所為ですか!)
そわそわと落ち着かないまま、朝食を終える。立ち上がって片付ける最中に、
「今日は一緒にいられっから」
と告げられた。
「あ、そうなんだ」
「ん、向こうは一旦落ち着いた」
相槌を打って、外へ向かう。いつも通り裏庭の洗濯場へ行く道すがら、先日リンチにされかけた女子たちが前方に見えた。
彼女らは玲奈を見つけてキッと目を吊り上げるも、その横にいる男を見て、気まずげに顔を反らす。しかし、リュウはそれを許さなかった。
「お前らか。人の女に喧嘩売ってくれたのは」
女子たちは、ぎゅっと一塊になってリュウの威圧に耐える。
「っ、私たちは、ただ」
「ああ? 何だよ、言い訳くらい聞いてやるから言えよ」
喧嘩腰のリュウに、女子たちはビビって後ずさる。しかし、そんな中でもリーダー格の女子は涙目になりながらも反論した。
「だって! ユランならまだしも、そんな芋っぽいのがリュウの相手なんて受け入れられない!」
「そうよ! 何かソイツ、ヒコトさんにも庇われてたしっ!」
「ハッ、人の女捕まえて芋っぽいかよ。おまけにムカつく名前も出してくれやがって……お前ら、よっぽど俺を怒らせたいようだな」
「ぁ……! そ、そんなつもりはっ……」
リュウは羽織を脱いで、地面に落とす。女子たちはガクガクと震え、団子状態になって怯える。リュウはそれを高い視線から見下ろすと、首をコキ、と鳴らした。それが合図だった。
「キャアーーーっ!」
「ごめんなさい!!」
女子たちはリュウの剣幕にビビり、脱兎の如く駆けていった。




