120話
きょとんとリュウを見返して、たっぷり間を取って、やっと脳を再起動させる。
「へぁ!?? な、なんて!?」
「本当に付き合うかって」
どうやら、聞き間違いではなかった。
「嘘つきたくないなら、事実にしちゃあいいだろ」
「いやいやいや……、リュウは別に私のことが好きなわけじゃないでしょ」
「……こんな事言い出すくらいの気持ちはあるけど」
その返答に、どうにか平静を装おうとしていた心持ちは崩れ、とうとう絶えきれず頬が赤く染まっていく。口からは音にならない、空気だけがぷすぶす溢れた。
「そんな感じ微塵もなかったですけど」
玲奈が絞り出した声は蚊の泣くような大きさだった。
「伝えようと思ってなかったし」
「…………」
「お前は嫌かよ。本当に俺の恋人になるの」
「その……本当になったら、何か変わるの?」
「そりゃ、するんじゃねえの。色々」
色々、に含まれることを想像し、玲奈は小さくなって悶えた。迷宮の中で、リュウの唇をすぐ間近で見た景色が甦る。
「向こうに好きな男がいるとか」
「な、ないよ」
好きな人、と言われても、もうサディの顔は浮かばなかった。
「……嫌か分かんねえなら、試してみるか?」
「あ……」
リュウの足は長い。一歩ですぐに玲奈の体が触れそうな距離まで詰められてしまう。見上げた顔がゆっくりと迫ってくる。嫌なら嫌だと、言えばいい。でも、玲奈の唇はぴたりと閉じて、声を発しようとしない。リュウの顔が目の前まで降りてくるのに合わせて、目を閉じた。
(っ……)
柔らかさに驚いて、びくりと体を跳ねさせた。一秒、触れ合って離れていった唇を、ぼやける視界の中見つめる。
「どうだった」
「……分かんないよ」
分かるのは、ただ、鼓動がとてつもなく速く音を立てていること。顔が、赤く染まってるだろうこと。
「……じゃあ、もっかいするか」
うん、ともいや、とも言えなくて、こくりと頷くので精一杯だった。羞恥に、目元に涙が溜まってくる。
二回目のキスは、さっきより少し長かった。




