111話
今日は、リュウがいない。朝起きると部屋の中に当たり前のようにいる男は、「今日は陛下につく」と言った。
そういえば部屋への出入りは、リュウがいなくとも、玲奈の魔力だけで出来るようにしてもらった。少なくともこの国で変な真似はしないと、信用してもらったのだろうか。
(姿は見えないけど、首護隊の誰かが影から見てるんだよね。なんか緊張する……)
こちらは見えないのに、相手からは見張られているというのは精神的に疲れる。あまり気にしないように、さっさと慣れたいところだ。
一人で持ち場まで行くと、フミノは玲奈が一人なのを見て、「やっとお守りがいなくなったのね」と嬉しそうだった。
「きみ、ちょっといい?」
そう話しかけられたのは、洗濯が一段落して休憩している最中だった。顔は、見覚えがある。
(この人、リュウの幼馴染の)
初日に食堂でリュウに絡んでいた一人だ。
「私?」
「うん」
「いいけど……なに?」
「まずは自己紹介かな。俺は志陽。リュウとは古い付き合いなんだ。レナって呼んでいい?」
「うん」
「ありがと。突然なんだけど、友達になってくれない?」
「……友達?」
「リュウが恋人作るなんて思ってもみなくて、どんな子なのか気になっちゃってさ。ここに住むんだろ? 仲良くしたい」
「ああ、うん……」
玲奈は及び腰になる。男子にこんな風に誘われたことなどない。おまけに、志陽はクラスの中心にいそうなタイプの、爽やかな男の子だった。
「もうすぐ昼だろ? 一緒に食べようよ」
(リュウの幼馴染なら、私を気にするのは自然か……いきなり友達になろうとか、どこかのスパイかと思ったけど)
「……うん、いいよ」
「ここ空いてる」
「ありがと」
「午後も体動かすだろ? 下働きの仕事は体力勝負だからしっかり食わないと」
「うん。えっと……志陽、は、官吏なんだよね」
「ん、去年試験に受かって、晴れて。まだ一番下っ端で雑用ばっかだけど」
「へぇー、どういう仕事してるの?」
「配属は法制省」
「法制……法律関係なの?」
「そう、国の内政を司る組織。胡には全部で五省庁があるけど、一番人数が多く、部局の数も一番。俺がいるのは法定局」
「法定? 立法組織ってこと?」
「そ。法律を決めるって憧れがあってさ。希望通りの配属でさ、めっちゃ嬉しかったわ」
実は、玲奈は大学の進路に法学部を第一志望としている。
「分かる。いいよね、司法系の職って憧れる」
「今んとこ雑用しかやってないけどな。たまに評議の場に書紀で入らせてもらうこともあると、すげえ勉強になるし楽しいよ」
「ええー、いいなあー!」
志陽との食事は思いのほか盛り上がった。話しやすい人物のようだ。
「レナ、じゃあまた」
「うん。じゃあね」
志陽が去っていき、持ち場へ帰った玲奈を待ち受けていたのはフミノの猛攻だった。




