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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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110/164

110話

 夜。王宮内、九垓の自室。現在の彼の側近である杷南(はなん)は、報告を主人へ伝えていた。


「彼女の様子は?」

「大きな問題はありません。リュウとの交際が好奇の対象になってるくらいです。スラジにも、破滅の子の所在は現状、漏れていません。第一王子は国内の捜索を続けています。第三王子にも動きはありません」

「監視がきついんだろう。疑う先としては彼が真っ先に候補に挙がる。いっそ、レナが離れたのは彼にとっては良かったんじゃないか。匿い続ける手立てがあったとは思えない」


 九垓は酒を呷った。


「本気でスラジと対峙するおつもりですか」

「難しいところだ。現王の意向が続けば対立する必要はない……、が、そういかなくなる未来は近い」

「第一王子ですか」

「今時、あれ程野心の多い王子もそういない。彼が実権を握るのは時間の問題。そうなれば、矛先を胡に向ける可能性は高まる」


 事実、スラジ内の緊張は高まっていた。貧富の差は増し、小さな諍いが各地で起きる。権力者は地盤を強化すべく、より大きな成果を上げんと、急進派の第一王子の元へ集っていく。


「不安定な時ほど、語気が強い奴が魅力的に見えるんだよねえ」

「いざという時は、彼女の存在が鍵となるやもしれません……。しかし、下手を打てばそれが我が国の弱みとなることも」

「勿論リスクはあるが、切り札にもなり得る。むざむざ手放すのは臆病がすぎる」

「……はい」


 玲奈の処遇については、頷くに留めた杷南は、次の話題へ移った。 


「次に、中礼の軍ですが、山岳部へ逃げ込み立て籠もってます」


 典中礼(でんちゅうれい)。王族の外戚にあたる。三年前、タルカン国と烈仙の首長が手を組んだ事件の手を裏で引いていた当人が、この男だった。


 事実の発覚後、中礼は当時の冠位をはく奪されるや否や、反乱を起こした。その乱は未だ鎮圧には至っておらず、反乱軍は逃亡を続けている。それを可能にしたのは、とある男の存在が大きい。中礼は、国内随一の、優秀な魔術師を擁しているのだ。


「それでいい。追い込みすぎるな」

「はい」

「あれを鎮めるにも、リュウには実戦に戻ってきてもらわないと」

「……」

「あいつなら、一晩で終わらせられる」

「……ええ」


 話し終えると、九垓は後宮へ向かった。ここ最近、通う相手は決まっていた。


「やあ、御機嫌よう」

「っ、陛下」


 九垓が今宵訪れた姫、蘭蒼(らんそう)は立ち上がり、九垓の方へ振り返る。その顔色は悪く、彼女は立ち眩みによろけた。


「体調が悪いのか。座りなさい」

「申し訳ありません、折角お渡り頂いたというのに」

「そんなことは良いから。水は飲むか」


 藍蒼は再び椅子に腰かけると、九垓から水を受け取る。こくりと喉を潤すと、少し顔色がましになったように見える。


「いつから体調が悪い」

「最近、何だか気だるく……今朝は吐き気もあって」

「……蘭蒼。近頃、月水(つきのみず)は」

「あっ」


 二人は顔を見合わせた。


「明日、癒符師を呼ぼう」

「はい」



 癒符師――この世界における医者である。魔石を媒介し、患者の体内の血流、臓器の確認、魔力の込められた呪符や呪針により、治療を行う。


 早朝、王族専属の癒符師がひっそりと後宮に呼ばれた。癒符師専用の魔石は、平べったく大きい。砕くことなく、蘭蒼の腹へ乗せると手を翳した。魔石は発光し、体の上に光の陣を描いた。魔力が彼女の体内を巡り、数分後、癒符師は魔石を閉まった。


「ご懐妊にございます」

「分かった」

「陛下……」


 蘭蒼は、不安げに九垓を見上げた。寝台に広がった髪を、九垓はそっと掬った。 


「今日から安静に。そして、産まれるまで妊娠はここにいる者と、首護隊のみで共有する」

「はい」


 部屋には、蘭蒼付きの侍女が三名と、杷南が控えていた。


「体を冷やさないように」

「分かりました」

「……懐妊おめでとう」


 ずっと不安げだった蘭蒼は、九垓の言葉にやっと笑みを零した。



 後宮を後にした九垓は、なだれ込むように自室の寝台へ体を落とした。


「今か……」


 九垓が即位し三年弱。不穏な種がばら撒かれている中の姫の妊娠は、心痛が増しそうだ。素直に喜べない理由は、これまでの経緯にある。


『そなたの子が育つには、大きな困難が伴うだろう』


 かつて、祖母に予言された言葉が思い浮かんだ。その予言通り、今まで二人の赤子が腹の中で流れ、一人は産まれた一月後に息をしなくなった。


 よって現在、九垓に子はいない。親戚筋からは早く子をとせっつかれており、後宮へは足繁く通っていた。いつ来ても可笑しくないものだった。


「今度こそ」


 九垓は水晶を取り出した。そして頭では、一人の少女――玲奈の姿を思い浮かべていた。

  


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