109話
リュウと玲奈の交際が、疑われずに受け入れられた弊害が一つ。
(……また睨んでる)
鋭い視線は、ユランだ。今日も変わらず洗濯物を回収していると、枢晶宮の出口ですれ違った。目線を逸らしてそそくさと逃げるように庭へ行く。姿が見えなくなったところで、今日もぴったり付いてきているリュウが、舌打ちした。
「いい加減鬱陶しいな。文句言っとくか」
「それはやめとこう!」
リュウにそんなことを言われたら彼女へのダメージは計り知れない。
「放っとくから付け上がるんだよ。アイツ、昔から一度思い込むと、人の言う事聞かねえから」
その口ぶりは、ユランのことをよく理解しているようだった。
「彼女じゃないって言ってたけど、どのくらい仲良かったの?」
「仲……さあ、どうだかな」
「何それ、何も分かんないじゃん。じゃあ、何歳から知ってるの?」
「六つか七つか……官吏の子供たちが遊んでる広間に、俺も通うようになって、そこで」
(ユランは官吏の子供なんだ)
そして彼女自身も、下働きの服ではなく、官吏の服に身を包んでいた。登用試験に合格しているということだ。
後で知ったことだが、例の脇がざっくりと空いた服は、武官の制服らしい。文官の服は紅那が着ているような踝丈まである上衣。下働きは、紺色の半袖半ズボンと、見た目ですぐに身分が分かる。
リュウは特別な例として、他にあの若さで官吏になっている者はあまり見かけない。彼女は優秀なのだろう。
「十年近い仲なんだ……」
「長いからって親しいとは限らないだろ」
「そうかもしれないけど……いいの、本当に嘘ついたままで」
しつこいようだが、リュウを好きだという彼女に、恋人同士だと勘違いさせたままなのは、胸が傷んだ。
しかしリュウは、玲奈の心配をばっさりと切り捨てる。
「アイツは昔、俺を拒絶した」
「え……」
「話したろ、ここで力が暴走したあと、全員距離を置いたって。アイツもその一人だ。好きとか言っても、その程度。俺を見てるわけじゃない。恋してる自分に酔ってるだけだ」
「……」
「アイツが知ってる俺は、すげぇ魔術の才があって、優秀な人間。今もその幻想を追ってんだよ。迷宮でろくに役に立たなかったとこみせたら、熱も冷めただろうにな」
「……リュウで役に立ってなかったなら、私の立場ないんだけど」
「それはそうだな」
「…………」
「絶対バラすなよ」
そう念押しすると、リュウは洗濯桶に向かった。




