107話
「当面、あなたに任せるのは櫃花房の洗濯、掃除ね」
「ひっかぼう」
「お前が入った独身寮のことだ」
寮には名前があったらしい。玲奈は頷いた。
「まずは洗濯物の回収。ぼさっとしてると終わらないから」
「うん!」
「つ……かれた……」
「体力なさすぎ」
「うう……」
フミノは呆れた。櫃花房の各部屋から敷布を引っ剥がし、回収。大風呂にたんまり積まれた浴布も同様に、がさっと回収。何往復かして、洗い場に持ってくるのだけでヘトヘトになった。
洗い場には同じ格好をした男女が十名ほどいた。玲奈を見ると、にこりと笑ってくれたり、探るような目を向けたり。
(もしや怪しまれてる……?)
「新入りにはいつもああなの。それに、あんたは男連れだし」
少し先の木陰で涼むリュウに視線を向けながら言った。
「……あれ、やっぱり目立つよね?」
「目立ちまくり。元々、リュウ自身が注目の的だから余計」
若くして抜き出た実力者で、先王の元で護衛を務め、原因不明の力の暴走で、出奔した男。それが恋人連れで戻ってきたのだ。
(身を潜めるには、リュウはいない方がいいって後で言っとこ)
「これが洗濯板。桶の中で洗って。水はあっちの井戸から汲んで。洗剤はそこに積んでる」
「……魔術は使わないの?」
「使わなくてできることには使わない。魔石の無駄だし、若者の仕事を奪うことにもなる」
それは正論だが、この量の洗濯を手で行うことは中々の労力だ。そう思うが文句を言える立場ではないので、教えてもらった通りに作業をする。
「今日は午後から天気が荒れるらしいから、早く洗わないと」
フミノが空を仰ぎ見た。この国にも天気予報があるようだ。
「魔術を使って予報するの?」
「伝鳥が空を見てくるのよ」
「でん……なに? 鳥?」
「伝鳥は貴類の血を引いた生物。この国では、古くから伝鳥と助け合って生きてきた」
(貴類……)
度々、その存在の名を耳にしてきた。玲奈に下された宣告にも関わっている。
「貴類って会える?」
「はぁ? 何急に」
フミノの訝しげな顔はスルーして、もう一度「どうなの?」と問う。少しずつでも、情報収集をしなければ目的は達成できないだろう。フミノは手を止めないまま、玲奈に教えてくれた。
「一般庶民にはまず無理だけど、方法はある」
「え! どうやって!」
「陛下は貴類の現れる場所を知る術を持ってるそうよ」
「あの人が……」
やはり只者ではないようだ。九垓の協力を得たいところだが、大手を振って味方と言い切れないところがまた難しい。
「陛下って呼ばないと浮くんじゃないの」
「あ、確かに」
そこまで気が回ってなかったが、周りに溶け込みたいなら必然だろう。フミノは「こいつ大丈夫か」と呆れた顔をしたが、玲奈は気付かなかった。フミノはため息をついた。
「それより今は、手を動かして。終わらないから」
「はいっ! ごめん!」
その迫力に慌ててこくこくと首を振り、そこからは黙々と洗濯をこなした。




