105話
じゃりじゃりと足元を鳴らしながら、紅那の後を追う。
「正黄街は門の外側から外、中、内郭の三つに大別される。ここは外郭」
見上げると、正面に大きな建物。昨日、九垓との謁見に連れてかれた所だ。左斜め前にあるのは、玲奈たちが寝泊まりした建物。今立つ広場は、それらの前にある。
「この前庭は使節団の出迎えや民衆の謁見場、祭典にも使われる。左側の建物はお前たちのような下働きや、独身の官吏たちの居住区となっている。そして正面の建物が、中郭である枢晶宮。政務の場だ」
「あれは何ですか?」
ナシュカは右側の背の高いやぐらを指さす。
「ああ、あれは占星台だ」
「占星台?」
「魔術研究には星見が付き物なんだよ」
玲奈の疑問に、リュウが応えた。
「へえ、星……星……?」
「どうした」
「ううん、何でも……」
答えながら、喉奥に何かが引っ掛かったような感覚を覚える。
(星と、魔術……何だっけ、何か大事なことだったような……)
紅那は放心した玲奈を気にかけず、中郭・枢晶宮へ入っていく。
「ここ、一階の広間が朝堂だ。週に一度、高級官吏を集め陛下が政議を取り仕切る。ほかに儀式、饗宴も執り行われる」
百人弱は入れそうな広さの部屋だ。奥には玉座があった。ここに官吏がずらっと立ち並び、国王が最奥に控える画は壮観だろう。
「そして二階」
紅那は歩みを進める。つい昨日、秤を行った部屋に通された。昨日の何もなかった景色とは打って変わって、机が並び、書物が散らかっていた。
「ここは方丈間。普段は、陛下の枢晶宮での居所だ。陛下に用のある者はこの部屋を訪れる」
「あの、それって、私たちがこんなふうに入って良いんですか?」
「何を言っている。お前たちには枢晶宮の掃除や書物の整理諸々を任せるんだぞ」
「それはそうなんですけど……」
玲奈の感覚としては、国の要人が無防備にウロウロしていたり、重要書類が放置されていたりする環境は怖さがある。リュウがぼそ、と呟いた。
「姿は見えなくても、首護隊は常に控えてる」
「あ、そっか」
「それに、陛下はそこらの下働きに身を脅かされるような軟な人じゃない」
「へぇー、強いんだ」
「下手なことしたら、お前が気付かない内に頭と銅が分かれてるだろうよ」
「……」
「そういう事だ。心配されずとも、貴人の安全に抜かりはない」
「それは分かったけど、書類は? 機密書類とかあるんじゃ」
「ああ、それなら」
紅那は机の側まで歩き、玲奈に書類を差し出した。
「見てみろ」
「はい」
いいのかなと思いつつ、覗き込む。
「えっ、見えない!?」
外国語が読めない、とかそういうことではない。文書に白い靄がかかっていて、文字として識別できなくなっている。
「魔術がかかっている。一部の高級官吏にだけ見えるようにするのも、陛下にしか見えないようにするのもお手の物だ」
「へぇ〜、なるほど」
それならこちらも安心して部屋を行き来できるわけだ。
「向こうは役人の政務室だ」
方丈間を出ると、二階には細々した部屋が立ち並んでいた。中を覗き見させてもらうと、官服の文官たちが仕事に励んでいた。紅那に気づくと一礼し、リュウに気づくとぎょっとしている。
(……昨日会った人たちは昔からの友達なんだっけ)
それ以外の者たちは、リュウに対し距離があるようだった。ちらとリュウを見るも、気にした素振りはなかった。




