104話
翌朝。体を揺り起こされ、玲奈は渋々目を開けた。
「はよ」
「……おはよ……また勝手に入ったの…………」
「ノックはした」
寝起きで動かない頭、カサカサの喉から何とか言葉を捻り出す。
「飯食ったら、一度顔合わせする」
「……誰と?」
「お前の護衛だ」
人目につかないように連れていかれた小部屋には、既に先客がいた。
「お、来たか」
「……?」
「陛下の首護隊の任に当たる奴らだ。暫く、お前の護衛を兼任する」
「私の護衛……」
「そういうことだ。宜しく」
「お、お願いします」
男性が一人。女性が二人。いずれも、二十代半ば頃にみえる。まず真っ先に、その服装に目がいった。
(皆脇空いてる!)
ユランが着ていたものと同じ型だ。彼女が特別露出の高い服を着ていたわけでなく、制服のようなものらしい。男女の区別なく、脇から横腹までがざっくりと空いてるが、ここにいる三人が身を包んでいる服は黒一色だった。
何となく目をそらすと、リュウに「何よそ見してんだ」と首を掴まれる。
「ごめん、ちょっと慣れなくて……。えっと、首護隊ってリュウもそうなんだよね」
「まあな」
「っても、リュウは先王の首護隊員だ。そのまま国を出てったから、俺らが一緒に組んだことはなかった」
「あ、そうなんですね」
九該の父である先王、慧燿の首護隊は、そのまま現在も隠居した慧燿に仕えているらしい。リュウは国へ戻ってきたのを機に、正式に九該の首護隊に入ったという。
「リュウは陛下が後見人だからな。既定路線だ」
「……あまり乗り気じゃないが、そういうことになった。俺がずっとお前に付いてるわけにはいかねえ」
「うん」
「この人たちと交代でお前の護衛と監視に当たる。この人たちは俺と違って、全員導士だ」
「導士……」
その言葉に、玲奈は一瞬息を止めた。
(お母さんと同じ……魔石を使わずに、魔術を使える)
リュウは気にすることなく、続ける。
「ただ、首護隊が代わる代わるくっついてたら目立つから、俺以外は見えない位置に控えるようになる」
「あ、うん」
確かに、王の直轄部隊が目に付く所にいたら、私は危険人物ですと背中に書いて言ってるようなものだ。
「視界に入ってなくても、部屋から出れば、誰かしらがお前を見張ってる」
「分かった。ナシュカたちと同じように生活すればいいんだよね」
ここを当面の安住の地にして、今後の方策をゆっくり練っていきたい。そのためにも、自分がボロを出すようなことは避けよう。
玲奈が決心を固めると、男性が爽やかに話し出す。
「話はまとまったようだし、俺らの自己紹介をしておこうか」
「はい!」
「俺が桃鳳。宜しく」
桃鳳はリュウと同じくらいの背丈だったが、体格はリュウより一回り大きく、がっしりとした人物だった。暗い赤髪を短く刈り上げている。
「こっちが雪璃、奥のが翠夏」
無表情のまま、ぺこりと頭を下げた雪璃は、肩の下程までのさらりとした黒髪に、水色の瞳が涼し気な雰囲気を増していた。一方、翠夏の方は人懐っこそうな笑顔を玲奈に向けた。彼女は青みの強い髪を一つに結い上げ、サファイアブルーの瞳が爛々と輝いている。どちらも背が高く、玲奈より頭一つ大きい。
「それと、今は陛下に付いていていないが、もう一人、氷來兜という男がいる。リュウを入れて五名の体制だ」
「あんまり大っぴら喋ることはできないけど、宜しくね」
「はい、こちらこそお願いします」
三人と挨拶を交わし、リュウと部屋を後にする。次いで連れて行かれたのは、王宮敷地内の入り口だ。そこには、トキとナシュカもいた。そして、むすっとした表情で待ち構えていたのは、紅那だ。
「揃ったな。君たちは全員、秤を終え、この国の一員となった……。一名は事情が違うようだが」
ぎくりと跳ねた玲奈は苦笑いするしかない。紅那は眉を上げた。
「それはひとまず後だ。次の官吏登用試験は三ヶ月後だ。その間、お前たちは下働きとして王宮内の雑事に当たる。造りを一通り説明する。ついてきなさい」
紅那は玲奈たちを微塵も気遣わない速足で進んだ。




