103話
リュウはユランの背中を見て、溜息を吐いた。
「いいの、本当に」
「これが一番だろ。ちゃんと話合わせろよ」
「……分かった」
少し離れているが、まだ食堂には取り巻きが残ってるので、リュウは耳元で囁いた。
(あの子、本気でリュウが好きなんだろうな……。凄い罪悪感……)
その胸中を思うと、玲奈までずきんと胸が傷んだ。サディとミトラの逢瀬を盗み見た、目の前が暗くなるような感覚。今、彼女があれを味わっているのだろうか。
(事実ならまだしも……嘘なのに……)
「おいリュウ! さっきの本当かよ!」
「この子と付き合ってんの? まじ?」
「そう言ってんだろ」
「お前……ユランの気持ち分かってんだろ?」
「今日は泣き明かすんだろうなあ、可哀想に」
「知るか。慰めてやれば」
「うわっ、最低」
「何でこの子選んだんだよ。ユランの方が可愛いしスタイルも上じゃん」
(はあ? 本人の目の前で言うの、それ)
玲奈の怒りを感じたのか、そう発言した男は、慌てて「あ、ご、ごめん」とにへらと笑った。リュウはそれらを無視して、玲奈の手を引っ張った。
「もう寝ろ。疲れたろ」
「……、うん」
「うわ、リュウが女子に優しい……」
「本気なのか……」
「ユラン……ご愁傷さま……」
リュウに送ってもらって、部屋に辿り着く。リュウは当たり前のように部屋の中まで入ってきた。元がリュウの部屋だしいいのだが、カモフラージュとは言え恋仲だと宣言された直後で、心が落ち着かない。
「この部屋は風呂もついてる」
「ほんと? やった」
「一緒に入るか」
「は……ハァ!? 何言ってっ!」
「冗談だわ」
「な……っ、」
「お前な、分かってんのか? 恋人のふりすんだぞ。あんまテンパんなよ」
「わ、分かってるよ」
「…………」
「なに……?」
「ちょっと練習しとくか」
「え? ちょ、な、なに」
リュウの長い足は、一歩出しただけで瞬く間にぐっと玲奈との距離を詰めてしまった。見上げる角度がぐっと高くなる。一歩後退りするも、腕が絡められて動けない。
リュウの顔が、ゆっくりと玲奈のところまで堕ちてくるのを、スローモーションのように目が追った。
「っ……」
リュウの息を感じるくらい距離が縮まって、ようやくリュウはぴたりと静止した。
「……、避けねえの?」
「っ!」
硬直していた頭をぐりんと横へ捻った。もっと距離を取ろうとしたが、相変わらず腕は掴まれたままだった。
「こんな……っ、急に何の真似!」
「だから、練習だって。恋人なのに距離取ってたら怪しまれるだろ。ただでさえ、あいつ納得してなかったし」
「だからって……外でしっかり演じればいいんでしょ。こんな所でやる必要ないし!」
「フーン。じゃ、明日からしっかり演技しろよ」
「あたっ」
デコピンされて額を抑える。リュウはひらひらと手を振って去っていった。
「…………」
部屋の扉が完全に閉まったのを見送って、その場へうずくまって膝を抱えた。
(なんなの今のは!!! もう少しでキス……! 何で受け入れようとした! 抵抗しろよ私!)
雰囲気に流されるままだった自分に怒号を浴びせる。リュウが止めてなければ、間違いなくあのまましていた。さっき玲奈は、抵抗をする気が微塵もなかった。近づいてくるリュウの整った顔が、リフレインする。
膝から上げた頬は、真っ赤に茹だっていた。




