102話
リュウが無視しろというので、とりあえず着席して食べ始めるも、相変わらずビシビシと視線が痛い。それは明らかに嫉妬の色を含んでいる。
(幼馴染って言ってたけど……向こうは完全に)
ちらとリュウを見るが、知らん振りを決め込むようだ。リュウはものの五分強で食事を平らげてしまい、「さっさと食え」と玲奈を急かす。手の空いた様子を見て、ユランは痺れを切らし再度近寄ってきた。
「リュウ!! その子誰なの!」
「ハァ……、迷宮で知り合った奴」
「そんなのもう知ってるよ! 何で一緒にご飯食べてるの!? 部屋から付き添ってきたわけ!? 部屋……待って、女の子の部屋に二人っきりで!? 二人で過ごしてたの!?!?」
ユランは一人でヒートアップしている。リュウは呆れ顔だ。
「……あの」
「……何」
「勘違いしてるみたいだから……リュウとは想像してるような関係ではないので」
「そんなの当たり前でしょ!」
「え」
「リュウがこの間知り合ったばっかの異国の女子と恋仲になるわけないじゃない!」
「え、えっと、じゃあなぜそんな怒って」
「勘違いさせるような行動を取ってることに怒ってるの! リュウは格好いいんだから、そんなことしたらあなたが期待しちゃうかもしれないでしょ!」
「……ねえ、付き合ってたわけじゃないんだよね」
「そんな事実はない」
片想いにも関わらず、こうも威勢よく恋敵を蹴散らそうとできるのは、凄い才能ではないだろうか。
「〜〜っ、殆ど恋人寸前だったのよ! リュウが戻ってきて、やっと恋が始まる所だったの! なのに……っ、何で、……っ!」
「あ……、」
リュウが玲奈の隣にいるのは、玲奈を監視する役目があるからだ。何と説明しようかと悩みながら開いた口を、リュウは目線で制した。言わんとすることはすぐ分かった。
(この子たちには、私の事情を言わない方がいいのか)
確かに、玲奈は隠れてる身の上であり、噂が広まるリスクは少しでも下げるべきだ。
(罪人だということは、王様以外に護衛の人たち……五、六人の前で言った。その後、どこまで部下に私のことを伝えたのかは分からないけど……)
「俺はお前に言うことはない、って言った。それで納得する気はないんだな」
「……できるわけないでしょ」
「ならしょうがねえな。こいつと俺は恋仲だ。分かったんなら付き纏うな」
「……は」
思案していた玲奈は反応が遅れ、ようやくリュウの発言を理解してぽかんと口を開ける。途端にリュウにキッと睨まれ、慌てて我に返った。周囲は「マジで!?」「リュウが女連れで帰ってきた!」と騒いでいる。
(事情を言えないからって……そんな嘘)
ユランの反応を恐る恐る見る。口を歪めたユランは、冷静さを保つように、低く言葉を吐き出した。
「そんなの、嘘。何か事情があるけど、言えないからそんなこと言ってるんでしょ」
(鋭い! その通り!)
「嘘じゃねえよ」
「さっきこの子がそういう仲じゃないって言ったのは?」
「暫くは隠しとくつもりだったんだよ。騒がれたくねえからな」
「……嘘だ。だって、その子リュウが恋仲だって言ったら、びっくりした顔してたもん」
ぎく、と固まる玲奈とは逆に、リュウはにやりと玲奈に向けて笑った。
「信じてくれねえってさ。俺はもう、お前の髪も肌も、よーく知ってんのになあ」
「なっ、あれは……!」
リュウの言葉が何を指したかはすぐ分かった。迷宮で抱き合った時の、髪に触れた手、肌を弄った掌を思い起こし、頬に朱が走った。
「あの夜は刺激的だったな?」
「ちょっ……止めてよ!」
玲奈の焦りようが、出鱈目の嘘に、『それっぽさ』を与えた。ユランはわなわなと震え、俯く。
「……っ、信じないから」
「あ……」
ユランは背を向けて、去っていった。




