101話
時が止まったような感覚から抜け出すように、喉から声を絞り出した。
「リュウは、あの人の部下でしょ」
「その時は部下じゃなくなる。胡がスラジに敵対するわけじゃない。罪人と手を組んだ、謀反人の罪で収まる」
「収まるって……。そんなことしたら、リュウも」
「晴れて指名手配犯の仲間入りだな」
「……何で。リュウがそんな事する必要ないじゃない」
二人は、たまたま迷宮で遭った、ひとときチームを組んだだけの間柄だ。
「随分冷たいじゃねえの。命を預けた仲だろ」
「っ……そりゃ、あそこにいた時はそうだけど……ここはリュウの故郷で、やっと帰ってこれたのに」
「俺は、帰ってきたくなかったんだよ」
「え……」
「飯行くぞ。そろそろ行かねえと食いっぱぐれる」
広い背中を見つめながら、頭では、『帰ってきたくなかった』、その言葉がリフレインしていた。
食堂に入るや否や、リュウに目掛けて、小柄な人影が飛んできた。
「リュウー!!」
「あ?」
可愛らしい声が、リュウの名前を呼ぶ。つかつかと寄ってきたのは、玲奈と同じ年ごろの女子だった。
玲奈はまず、その格好にびっくりした。首まで覆われた布はぴたりと体のラインに沿っている。が、何故か脇から下は腰骨までざっくりと布が無くて、細い紐が腰の下で前後の布をかろうじて繋ぎ支えていた。
(露出多……)
しかも、彼女はナシュカに劣らない巨乳だった。ボディラインを浮き彫りにする布に覆われて、その胸元は自然と目が吸い寄せられるほどに強調されていた。玲奈の不埒な目線を気にせず、その子はリュウへ嘆いた。
「もうっ! 昨日、陛下の用事が終わったら私のとこに来てくれるって言ってたから待ってたのに! 来てくれなかった!」
「行くなんて言ってねえ」
「三年ぶりなのにその態度!? ひどい……っ」
「おいリュウー、ユラン泣かせんなよ」
「何もしてねえわ」
「してないから泣いてんだろー」
「そうそう、再会の口付けでもしてやるとこだってのに、違う女連れてんだもんなぁ」
周りの視線が玲奈に向き、きゅっと縮こまる。
「おい、あんま見んな、散れ」
「……その子、誰」
玲奈を背中に庇ったリュウに対し、さっきの彼女――ユランは、据わった目で問いかけた。彼女はリュウの幼馴染の一人だ。
黒いショートカットと胸のゆらめきが、彼女の怒りを伝えている。
「お前に言うようなことはねえ」
「なっ……」
「そりゃないぜ、リュウ。ユランはずっとお前を心配して待ってたんだぜ?」
「本当だよ。どんなに他の男に言い寄られても袖にしてなあ」
「お前もその一人だもんな」
「お前もな」
ガヤガヤと騒ぎ立てる周囲の中心で、ユランはリュウをじっと見つめる。リュウは気にした風もなく、玲奈を促した。
「飯はこっちから受け取る」
「あ……、いいの?」
「放っとけ」
リュウに手を引かれ、食堂の端へ向かった。盆と小鉢が置かれており、手に取っていくリュウの真似をしてついていく。
「米は自分でよそう」
「うん」
「……んだよ」
探るような目を向ければ、リュウは居心地悪そうに身を引いた。向こうに聞こえないよう、ボソボソと話す。
「あの子、彼女?」
「違う。幼馴染」
「ああ、さっき言ってた」
「ん。あの辺にいるのは、全員昔からの顔見知り」
「へぇ……」
リュウの話では、能力が暴走して距離が出来たと聞いたのだが、そんなふうには見えない。
「悪いな」
「え?」
「絡まれてうぜえだろ」
「ううん、それは全然……それより、いいの?」
「放っとけつったろ」
「いや、だって……」
玲奈は背後を盗み見た。
「めっちゃ睨まれてるんだけど」
「…………」




