100話
リュウの話を聞き終わり、玲奈は質問をする。
「国を出た後はどうしたの?」
「転々と。ただ単に放り出されたわけじゃねえ。偵察、情報収集、便利に使われたさ。魔術が雑魚だったから大したことはできなかったけど」
「迷宮に行ったのは?」
「そろそろ帰ってこいって言われて……、迷宮行くのが近道だったから」
そんな理由であんなに危険な場所へ赴いたというのか。下手したら、死ぬ可能性だってあったのに。
(……それだけ、死にたかったのかな……)
迷宮でのやり取りを思い出した。それは口には出さず、質問を重ねる。
「リュウって、人の名前呼ばないよね。今話してくれたこと関係ある?」
「事件後、人と関わることを避けてたからな。癖みたいなもんだ」
玲奈はそっか、と静かに相槌を打った。
「王様が襲われた時の裏切り者ってさ、事前に分からなかったの? この国の王様は心眼を使えるじゃん」
「あれは国外からの入国者にしか使えない決まりだ」
「えっ、なんで? 便利なのに」
「心が筒抜けになれば、信頼関係など生まれない。国民は常に怯えながら暮らすことになる。そんな状態を禁じるため、古い時代に、使用の制限を施した。それは現王といえど、解けるものではない」
ずっと監視状態に置かれていては、仕えるなどできないということか。歴史を紡ぐ中で、制限がかかったのは必然だったのだろう。
「俺の話はもういいだろ。お前の番だ」
「……うん」
リュウが玲奈に伝えた話は、実際には要所をあっさり伝えただけですぐに終わってしまっていたのだが、大体の境遇は理解した。玲奈もそれに答える必要があると、口を開く。
「……こっちに飛ばされて、助けてくれたのは第三王子のサディであってるよ。逃げ出したのは、その部下が、第一王子と繋がって、私を売ろうとしたのに気づいて……」
「どうやって気づいた?」
「ん……、話を聞いちゃって」
実際は売られた後に時間を戻したのだが、それはやはり話せない。
「お前に盗み聞きされて気付かない? 相当使えねえ奴だな」
「…………」
「で? 裏切ったのは部下だろ。第三王子から逃げた理由になってねえ」
「最初は、彼に頼ろうとしたんだけど……止めた」
「何で」
「今は利害が一致してても、そうならなくなった時を考えたら、他人に全てを委ねるのは危険だと思った。それで、その時は結構時間が差し迫ってて……勢いも半分、逃げ出して迷宮に行ったの」
「ふーん。ま、正しいと思うぜ。王子が自国の罪人を匿うなんてリスクがすぎる。いつ切られてもおかしくない」
「うん」
そして、口には出さないが、そのスタンスは、リュウたちにも同じだ。胡の人間だけではない。トキにも、ナシュカにも、他人に自分の命運を全て委ねて信頼するような選択はできない。逆廻の能力だけは、誰にも話さない。
「第三王子はお前の行き先を知ってると思うか」
「たぶん……。迷宮のことを教えてくれたのは、彼だったし」
「となれば、国内で見つからなきゃ、当然選択肢には入るか。追ってくるかは微妙なとこだ。派手に動けば、兄貴に勘付かれる」
そうなれば玲奈に訪れるのは死刑。当然、サディの野望も叶わない。
「スラジの王族が私の居場所を知ったら、こっそり逃がしてくれるって言ってたけど、信じていいと思う?」
「俺の答えを、お前は信じんのか?」
「……分からない。でもリュウの言葉で聞いておきたい」
リュウはそうか、と頷いた。
「陛下はそういう嘘をつく人じゃない。スラジが出張ってきても、お前を逃がす算段くらい、つけてるだろう……けど」
リュウが言葉を切って、緊張が走る。
「絶対とは言い切れない。状況が大きく変わる可能性はある。その時、国よりお前を取るとは思えない」
「……うん、そうだよね」
それは現実的な答えだったし、絶対信じろと言われるよりも、むしろ誠実だ。
「そうなった時は、俺が何とかする」
「え……?」
「陛下がお前を切る時は、俺がお前を守る」
リュウの真っ直ぐな瞳が、玲奈の心臓までざっくりと射貫いて、心臓の鼓動さえ、止めてしまった。




