第四話 私の居場所はないみたい
その週末、わたしはスキール伯爵領に行く代わりに、自分の実家へと戻った。
婚約解消を聞きつけた両親に、これは一体どういうことかと尋問を受けることになってしまったのだ。
「このバカ娘が! 親に相談のひとつもなく、勝手に婚約を解消するなんて!」
父は唾を飛び散らせながら怒鳴った。
横にいる母もそれをたしなめることなく、私を呆れ顔で見ている。
「スキール伯爵家との繋がりが無くなったら、私の事業に影響が出るとは思わなかったのか!」
父はいくつもの商船を持って他国と貿易をしている。
海のあるスキール伯爵領と懇意にすることで、港での停泊料を格安にしてもらっていたのだが、私とリアムが婚約を解消したことで、今後は他の船舶同様に既定の停泊料を支払うようにとの通達がきたらしい。
「私の事業がうまくいかなくなったら、お前のせいだぞアルマ!」
「子育てに失敗したわね……」
両親は口々に私をなじった。
彼らが口を開く度、私の胸はズンと重くなっていく。
リアムの横だけではなく、家に帰っても私には居場所がないのか。
両親なら、勝手に婚約破棄したことは咎められても、私の立場の無さに共感したり、リアムの浅慮さにたいして一緒に怒ってくれるのではないかと思っていたが……。
甘かった。
突然、自分の足元がぼろぼろと崩れていくような気がした。
今までは聖女として有難がられ、婚約者がいて、実家の両親も鼻が高そうだった。
でも今は、両親ともに私のことを疎まし気に見ている。
また学校でも、私がリアムから“自称聖女”などと言われたせいで、それを真に受けた同級生たちからは少し距離を置かれるようになってしまった。
私の居場所はどこにもない。
そう考えると目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとする。
今まで頑張ってきたのは何だったんだろう。
街を流れる澄み切った川を見れば、自分が頑張ったおかげだと胸を張れた。
農家の人が「アルマ様のおかげで今年も豊作だよ!」と教えてくれれば、誇らしい気持ちになった。
でももう聖遺物から遠ざけられた私は、聖女を名乗ることもない。
誰からも感謝されない。
なんの価値もない伯爵令嬢。
それが私。
私を罵倒しつくして疲れたのか、最後に父はため息交じりに言った。
「もうお前はこの家の敷居をまたぐな。この家から王立学院の中退者を出す訳にはいかないから、卒業までの学費だけは出してやる。でも、卒業後はこの家に帰れると思うな!」
私は両親に別れの挨拶をすると、のろのろと荷物をまとめ、屋敷を出た。
誰も、見送りにも来ない。
虚しい。むなしい。
私はぐすぐすと鼻をすすりながら、王立学院の寮へと帰っていった。
外はどんよりとした曇り空が広がっている。
雨でも降るのだろうか。
夏だというのに、どこかうすら寒い。
私は思わず震えそうになった。




