第二話 婚約解消だ!
「俺はアルマ・サートマンとの婚約を解消し、新たにここにいるエミ―リエと婚約することにする! ……という訳だから、ここにいる諸君は今後、俺とアルマには関りがないと思ってくれ」
ある日の王立学院大食堂にて。
私の婚約者であるリアム・スキール伯爵令息は、ランチを食べている生徒たちの前で高らかに言い放った。
彼の突然の宣言に、一瞬食堂内がしんとする。
リアムの様子を怪訝な顔で見る者。
嘲笑する者。
私に対して哀れみの目を向ける者。
生徒たちの様子は様々だったが、私はとにかく穴があったら入りたいほどに恥ずかしかった。
そして動揺しすぎて、思わず持っていたスプーンを床に取り落としてしまった。
しんと静まり返った食堂の床で、スプーンがカランカランと転がる音だけが響く。
「婚約解消……ですって? どうして急に? それにエミ―リエ様と婚約って一体……?」
「これだから頭の固い自称聖女は!」
リアムは私を自称聖女、と呼んで蔑んだ。
「今まで父上がお前を聖女だなんだと持ち上げるから、俺は親の勧めにのっとってお前と婚約してやったんだ。それなのに、よくよく調べたらあの聖遺物は誰でも動かせるそうじゃないか? それならお前と婚約関係を続ける必要はない。よって今日でお前との関係は終わりだ」
私の頭に、先週のエミ―リエとの会話がよぎる。
あれをどう解釈したら「聖遺物は誰でも動かせる」ということになるんだろうか。
エミ―リエは私からリアムを奪うために、自分が彼の家に必要な聖女になろうとしたのかしら?
リアムの父が治めるスキール伯爵領には、この国に3つしかない聖遺物を据え置く神殿がある。
私は彼の婚約者であるという理由で、毎週王立学院の寮から馬車で片道2時間かけて、毎週末にスキール伯爵領の神殿まで通い聖遺物に魔力を込めていた。
そのおかげでスキール伯爵領と周囲一帯は魔獣から守られていたのだが、私と婚約解消をするということは聖遺物を動かせなくなるということだ。
リアムはそれを分かっているのだろうか?
私もお人よしではないので、自分と無関係な領地の神殿に毎週通うような優しさはない。
「じゃあ、今後スキール伯爵領の神殿の聖遺物は、誰が動かすっていうの?」
するとリアムの横に立っていたエミ―リエがピンと片手をあげた。
「はいはぁい! 私が聖女になりまぁす!」
「はぁ?」
私が貴族らしからぬ間抜けな声を出すと、リアムはあざ笑うように言った。
「エミ―リエこそが俺の聖女だ。花を自在に咲かせることができ、優しくて清らかなエミ―リエが聖女じゃない訳ない。そうだろ?」
「はぁぁ?」
聖遺物を扱うには聖魔法の適性が必要、というのは常識でしょう?
エミ―リエには適性がないはず。
リアムには常識も判断力もなかったの?
「リアム様に、こんなに優しいのだから聖女に違いないって言われました! だから私が聖女になります。だって私、薬草とか育てるのが上手だし!」
薬草は……そりゃ植物だから……エミ―リエのように植物魔法に適性のある人は上手に育てられるでしょうよ。
しかし、そう言ったところで彼らは聞く耳を持たないだろう。
なにせ、昼時の食堂で大声でこんなことを言い出すのだ。
もう頭がおかしいとしか思えない。
私は深くため息をつきつつ、心を落ち着かせるために深呼吸を繰り返した。
リアムとは幼いころからの付き合いだったけど……彼の浅はかさには嫌気がさしていたところだったのよね。
おまけに、毎週末長時間かけて神殿まで行っても、リアムもスキール伯爵たちもお礼の一言もいわない。
私が奉仕することを当たり前だと思っているんだわ。
こうなったら、リアムの言い分を飲んで婚約破棄をしてしまいましょう。
後で痛い目を見ても知らないんだから……!
「わかりました。今日をもって、私はリアム様との婚約関係を解消します。リアム様、エミ―リエ様、どうぞお幸せに」




