第一話 聖女の仕事は簡単……ではない!
「アルマ様ぁ。聖女様のお仕事ってぇ、毎日お祈り? みたいなのをすればいいんですよね? 簡単ですね?」
上目遣いで私にそう話しかけてきたのは、男爵令嬢のエミ―リエ。
ここ王立学院での私の同級生の一人だ。
茶色いボブカットの頭の頂点には、いつも大きなリボンが鎮座している。
よく言えば女の子らしい、悪く言うとあざといタイプの女子。
「エミ―リエ様。お祈りと一言で言いましても、複雑な手順と、少し負荷のかかる魔力操作が必要でして、簡単という訳では……」
私はエミ―リエにも伝わるように、できるだけ丁寧に聖女の仕事を説明した。
私アルマ・サートマン伯爵令嬢はこの国の王立学院の生徒であると同時に、古代聖遺物を扱える数少ない聖女でもある。
古代聖遺物ははるか昔に作られた、魔獣から人間の居住地を守るための魔術具だ。
この国に3か所ある神殿の中に現存している。
それに祈りながら魔力を通すことで、辺り一帯に大きな結界を張ることができるのだ。
そして、この聖遺物の扱いが意外と難しい。
聖魔法を使えなければならないし、動かすための手順がややこしいのだ。
私は手順を完璧に覚えるまでに数か月はかかった。
でも、上手く動かすことができれば、その効果はなかなかに大きい。
結界は魔獣の侵入を拒むだけでなく、結界内に新たに魔獣が発生するのを防ぐことができる。
これによって作物は守られ、水は清らかな状態を保ち、魔獣由来の疫病が蔓延することはない。
この聖遺物に人の病気を治すとか、幸せにするとかいう効力はない。
けれど、人間たちが伸び伸びと暮らしていける下地を作ることに、大いに貢献していると私は思っている。
——といった内容のことを丁寧にエミ―リエに説明したものの、彼女は丸い目をきゅるきゅると輝かせながら、コテンと首をかしげた。
「だから、誰でもがんばったら聖遺物で結界を張れるってことですよね?」
うーん、そうじゃない。
「努力で解決するものではないのです。聖魔法に適性のある者でないと動かせませんし、長い呪文を唱える必要もあります。それから、魔力を流す量やスピードに絶妙な力加減が……」
「あっ、難しい説明はいいですから! 私も聖魔法の適性があるって言われたので、聖女になれますよね?」
それは知らないけど……。
だいたい聖魔法を使える人なんかこの国で毎年ひとり生まれるかどうかだ。
その中から更に聖遺物を扱うための適性がある人間は本当に限られている。
この国では魔法が使える人は多いが、果たしてエミ―リエに聖魔法の適性はあっただろうか……?
エミ―リエって花を咲かすとか、植物魔法の適性はあったと思うんだけれど……
エミ―リエは「そうだと思ったんだよねっ」と独り言を言いながら、頭の上のリボンをぴょこぴょこ揺らし、ご機嫌な様子で私から離れていった。
あれは一体なんだったのだろう。
その答えは、一週間後に最悪の状況で判明することになった。




