episode 8 配信のち人助け
配信を終えた俺は人目のない場所まで移動すると、配信機と白衣をまとめて『アイテムボックス』へ放り込んだ。
「あっ、サングラス忘れてた」
危うく白衣だけ脱いで怪しいサングラス姿で迷宮を歩き回るところだった。そちらも慌てて収納し、代わりに取り出した黒いローブを頭からすっぽりと被る。
「__『傀儡創成・A』」
足元に魔法陣が広がり、その中から顔に目も鼻も口もない、人間の形だけを模したのっぺらぼうのような人形が現れる。
マリオネットA。
俺が持つ二つ目のジョブ、『人形使い』によって作り出した傀儡だ。
ジョブには『位階』と呼ばれる段階があり、一定以上まで育てることで二つ目のジョブを得られることがある。向こうの世界でも俺がそこへ到達した当初は噂話程度の扱いだったので、この世界では恐らく誰一人として到達していないだろう。
「『擬態。対象、マリオネットA』」
人形の姿が揺らぎ、数秒後には何処にでも居そうな冒険者の姿へと変わった。
「適当に魔物を狩って、怪しまれない程度に動け。強い奴が来たら逃げろ」
Aが無言で頷く。
こいつは俺が作った人形の中ではかなり万能型で、戦闘も探索もある程度こなすことが出来る。しかも『名前付き』の人形は、破壊されても再び作り直せば、それまで得た経験をある程度引き継いでくれる。
向こうでは一緒に行動していた仲間が優秀過ぎて、単純な命令しか聞けない簡易傀儡を出すと逆に邪魔になることも多かったが、こいつらなら放置していても勝手に学習してくれるので色々と使い勝手が良い。
「__『傀儡創成・O』」
続けて現れた一回り小柄な人形に、宝箱を優先して探し、罠通路なども見つけるよう命令する。
Oは探索に特化した個体なので、戦闘能力こそAには劣るが、気配を消して誰にも見つからずに迷宮を探索することに関しては非常に優秀だ。
「俺はスライム狩りでもするかな」
当面の目標は十階層。ただし、表向きは三階層辺りをうろついていることにしておく。
配信を始めたばかりの初心者がいきなり下へ下へと進んでしまえば、確実に変な注目を集める。俺自身、低階層の魔物について説明したいことは山ほどあるので、ゆっくり進むことに不満もない。
「今日は稼ぐぞー。ほいっと」
『激コロ君(スライム用)』を使って近くのスライムを処理し、残った魔石を拾う。
名前はふざけているが性能は悪くない。低級の魔石でも数を集めれば馬鹿にならないので、少なく見積もっても二万円程度にはなるだろう。
「……ん?」
何匹か処理したところで、少し離れた下層から妙な気配を感じた。
「特殊個体か……?」
感覚だけで言えばBランク前後。この辺りに出現する魔物としては、どう考えても異常な強さだ。
俺の知識ではBランク相当の魔物なんて三十階層付近の階層主であるアイアンゴーレム辺りから出始める。低階層にそんな化け物が出れば、初心者にとっては災害と変わらない。
別に誰彼構わず助けるつもりはない。迷宮に入った以上、自分の力量を超えた行動を取れば死ぬこともあるし、トップランカーのように復活用の薬や装備を用意出来る人間ばかりではないことも分かっている。
ただ、本来そこにいるはずのない化け物に殺されるというのは、それとは話が違う。
「……行くか」
黒ローブの上から、機械仕掛けの仮面『機械面 アルファリオ』を装着する。
認識阻害に気配遮断、生体感知。しかも障害物を透視して、壁の向こうまで見える。更にそれに加えて声まで変えてくれる、向こうで序盤に拾った装備だ。俺からすれば懐かしい装備の一つでしかないが、こっち基準では充分過ぎるほどの性能をしている。
『あ〜、よし』
声も問題なく変わっている。
『行くか』
腰に刀を差し、階層と階層の間にある縦穴のような近道へ向かう。普通の冒険者なら落ちれば死ぬのでまず利用しない場所だが、俺は躊躇なく飛び降り、そのまま四階層の地面へ着地した。
『……おいおい、誰か追われてるじゃん!』
少し先で、一人の少女が巨大な石蜥蜴に追われている。
足取りは既にかなり危うく、しかも石蜥蜴が前脚を地面へ叩き付けると、通路の一部が隆起し、岩壁となって逃げ道を塞いだ。
『おいおい、魔術まで使いやがんのか!?』
岩壁そのものを壊すのは簡単だが、派手にやれば周囲に人が集まる可能性がある。
「__『傀儡創成・小型』」
手のひらほどの人形を作り出す。
「『付与__【隠形】【界標】』」
小型傀儡がぴしっと敬礼したので、そのまま岩壁の向こう側まで行くよう指示する。とててっと走り出した小型傀儡は、そのまま壁をすり抜けて向こう側へ消えていった。
「『__界渡り』」
景色が一瞬で切り替わり、小型傀儡の位置まで移動する。
そこからは小型傀儡に迷路の中を最短距離で走らせ、視界共有で少女の位置を探しながら、壁の向こうへ移動を繰り返す。
『見つけたか___って、結構やばいじゃん。『__換位!』』
小型傀儡の場所へと転移し、一瞬で少女と石蜥蜴の間へ入る。
そして、目の前の石蜥蜴へ刀を向け、
『……悪いな』
スキルすら使わず、一太刀で首を落とした。
助けた少女は酷い有様だった。足は折れ、身体中には擦り傷があり、周囲には回復薬や学生証、金貨袋まで散乱している。恐らく、使える物も使えない物も関係なく、とにかく生き残る為に全部投げたのだろう。
初心者だった頃の俺なら、こんな状況に追い込まれた時点で諦めていたかもしれない。
散らばった金貨を拾っていると、少女がびくりと身体を強張らせた。
『無事なのはこれしかなかった』
集めた金貨袋を渡しながら、少女の顔を見る。
泣き腫らした目に泥だらけの顔、髪も滅茶苦茶に乱れていて、一瞬気付かなかったのだが__見れば見るほど、どこかで見覚えがある。
(……ん? ちょっと待って? この子、委員長じゃね?)
白鳥 綾乃。
今日の放課後に普通に話していた、同じクラスの委員長だった。
(危ねー! 変装しといて良かったぁ!)
黒ローブにフルフェイス、しかも声まで変えてくれる仮面。ここまで完全に正体を隠せる装備を着込んでいた自分を、心の底から褒めたくなる。
『……金は大事だ。しっかり持って帰れ』
折れた足に関しては、小型傀儡へ高級回復薬を粉末化した小瓶を持たせ、見えない位置から使わせておく。これで問題なく歩けるようになるはずだ。
「あ、あのっ! 命を助けて貰ったお礼にしては少ないかもしれないですけど……! 受け取ってください!」
いやいやいや、クラスメイトからそんな大金貰えるわけがない明日、普通に学校で顔を合わせる相手から金貨袋を丸ごと受け取るなんて、流石に気まず過ぎる。
とはいえ全部断れば、それはそれで委員長の性格的にずっと気にしそうなので、一枚だけ受け取ることにした。
『……分かった、貰っていく』
袋の中から金貨を一枚だけ取り出して、指で軽く弾く。
『これで代金はいただいた』
「えっ、あの__」
『__換位』
そのまま迷路の外へ移動する。
まさか初日から知り合いを助けることになるとは思わなかったが、正体は完全に隠せているし、委員長も無事なら問題ない。
「……あ」
そこで一つだけ忘れていたことに気付いた。
『……ドロップアイテムと魔石回収するの忘れてた。まっ、いっか!』
どうせ委員長が持って帰るだろうし、折角四階層まで来たので、そのまま少しだけ攻略を進めて帰ることにした。




