第9話:暴走オタク特急
うごご、やっちまった。
大好きな世界。大好きな人物。漏れ出すオタクの声。漏れるだろ。声くらい。
見たこともないくらいの美少女だった。
だとしてもいきなり言うべきことじゃないことを言っちまった。
いや、目的は二つ果たせちゃいるんだ。前向きに考えれば、よかった。前進している。
一つ目は焦って走るうちに体が覚えていたのか学校にはたどり着けた。
我らが学び舎、綱木学園。画面で見るのとは迫力が違う。大きさが違う。総天然色。手触りまで存在する。いや、現実なんだから当然なんだが。
二つ目は主人公に近い人間に会うことができた。彼女がいるならつまり、主人公である静間 結人もいるってことだ。
うごうごと心のなかで唸っていると、昼休みになる。
ヒソヒソと声が聞こえてきた。
「だ、誰が呼ぶの?」
「私? わ、私は無理だよ、顔こわいもん、鬼伏くん……」
「いや、俺もこわいよ。なんか唸ってたし、他校の不良と因縁でもできたんじゃない……?」
誰の噂かと思ったら、というのすらできないくらいに直球にオレの名前。
顔が怖くてすみません。でもオレの顔立ちで無理に笑顔作ったらもっと怖くない?
などと思いつつ、立ち上がる。
しかし、なんて声をかければいいかわからなかった。
ファニーな感じで対応するのも逆に怖がらせそうだし、顔つきにふさわしい聞き方はもっとヤバい。中立中庸な、いい具合の言葉で選ばれたのは、
「どうかした?」
どうだ。受け取ってくれるか。どうか頼む。逃げないでくれ。
「鬼伏……くん」
「えっと、先輩が呼んでて」
「廊下で待ってるって……」
声音そのものは優しい音が出せた気がする。それがよかったのかオロオロとしつつも彼&彼女たちは受け入れて何があったかを簡素に教えてくれた。
廊下に行く途中で、
「声、案外優しいね」
「もしかして無駄に怖がっちゃってた……?」
「申し訳なかったかも……」
などと。
これからも草の根活動的に優しさを表に出していこう。
で、廊下に出ると、
「やあ。呼び出してごめんね」
その声の主はまさしく、二つ目に挙げた目的。
つまりLonesome Wayの主人公、静間 結人その人だった。
顔がいい。
とにかく顔がいい。
中性的な美しさがある。線は細いがガリガリってわけじゃない。均衡が取れていた。
などと考えていたらまた朝のようなことをしでかしそうなので思考を一度切り離そうとしたところに、
「お昼、食べた?」
「あー。いや、まだ」
っと。静間は年上だった。二年生だもんな。
「っすね」
学年上の先輩に対してどんな言葉遣いにするべきかの答えが出ないままに返事をしたせいで『まだですね』が半端な形でアウトプットされた。
人によっては舐めた態度だと思われてもやむなしな言葉に対して、それでも結人は人の心を蕩かすような笑みで、
「そっか。よかったら一緒にどうかな」
なるほど。これが公式で六股ができることになっている男の笑み。抗えるヤツはいるのか。
オレはそもそもファンなので抗えません。
「まず購買に行くところからでよけりゃ」
朝の一騒動もあって道中でコンビニに寄るだとかができてない。
今頃購買はすごい混み具合になっているかもしれないが、空腹で午後を耐えきる自信もない。
結人は勿論と頷いて、買い物から付き合ってくれることになった。
✘✘✘
屋上。
学園は巨大な敷地面積に巨大な校舎が幾つも建てられているが、その上で行動可能な空間を無駄にしないようにと作られていて、屋上も封鎖されておらず、自由に使うことができる。
勿論、転落・落下防止のための柵もあり、登れないように庇のような形状になっていた。
幾つもベンチなどが用意されていて、適当に空いているところに腰掛ける。
オレは早速買ってきたパンを開く。
戦闘中食べることで戦闘用のリソースが回復する『焼きそば抜き焼きそばパン』……!!
リアルで見るとただの野菜炒めが突っ込んであるパンじゃねえか……!!
などと心のなかで突っ込みつつもニマニマと微笑みが止まらない。
「そのパンでそこまで嬉しそうにする子、はじめて見たよ」
「あ、いや、……ははは。そっか。おいしそうじゃん?」
「うん。オレも好きだよ、それ」
だよな!
序盤のレベリングで絶対に使うもんな! これ食べつつ長時間ダンジョンにこもってさあ!
……などとは言えないよな。
「で、先輩。用件は?」
「それよりも先に自己紹介かな」
しまった。こっちは勝手に相手を知っているんだった。妙に馴れ馴れしい態度を取り続けてしまっている。不審者まっしぐらじゃねえか。
せめて後輩のオレから名乗りを、と思ったが、
「静間。静間 結人。二年D組」
「名乗り遅れてすみません。鬼伏 直衛です」
「直衛でいい?」
「勿論です、先輩」
「君も呼び捨てでいいからね。堅苦しいの、苦手だからさ」
「オッケーだ、結人」
と言ってから、
「……いや、流石にこれは馴れ馴れしすぎません?」
「あはは、新鮮でいいよ。うん。それで行こう」
「やれる限りで……」
心の広い人だ。
プレイヤーをやっているとついつい自分の感情移入が先にくるから実際、彼がどういう人間でどういう性格でって掴みあぐねることが多いんだよな。
けど、そっか。多くの人に愛されて、絆を束ねて大きな力にして、顕現する神や大いなる運命ってやつをはねのける人なんだ。
これくらい人好きする性質の人になるよな。
っと、また勝手に納得するのもよくない。
「結人はなんでオレに声掛けてきたんだ?
もしかして先輩のクラスで顔面ヤベえ奴がいるからシメようぜとかって話になってたりしました?」
「個性的なところもある顔立ちだと思うけど、造作は整ってるんだからあんまりそういうふうに自分を評するべきじゃないよ」
「す、すんません」
先輩だ。いい感じの、居心地の良い先輩風がびゅんびゅん吹いてくるじゃねえの。
「っと、ごめん。偉そうなこと言っちゃったね。声を掛けた理由はさ」
「理由は」
「妹のこと、口説いたりした?」
やーっべ。
怒って……る様子はないけど。
「ちっ──」
「ち?」
「違うんです!!」
「違うの?」
怪訝な表情になる結人。
「ちっ、違わないかも」
「あはは、怒ってるわけじゃないんだ。ごめんごめん。
妹が朝にスマホを拾ってくれた子に瞳のこと褒められたって、顔を赤くしててさ」
走り去ったので、その走っている生徒のことを聞いたら良く言えば特徴的な顔のオレが候補に上がった。で、今のように聞いてみればバッチリ当たっていた。そういうことらしい。
「変わった瞳だろ、あの子」
「オッドアイって奴ですよね。あんなに片目ずつで色が違うのは珍しいけど、びっくりするほどキレイだったから」
これについてはオレが原作が大好きだってことを差し置いても同じ感想に行き着くだろう。
汚れってものが一切ない、透き通った空色の瞳だった。
「実はそれがあの子、コンプレックスでね」
「変なこと言って嫌な思いさせてしまったとか」
「逆だよ」
「逆……?」
「あれから何度もインカメラで自分の目や顔を見て嬉しそうにしてたから」
想像するだけでかわいいな。
「想像するだけでかわいいな」
「想像するだけでかわいいでしょ」
「……声漏れてました?」
「心の中でも言ってたんだ」
「……まあ、はい」
変なやつの自覚はあるので自己弁護は諦めた。
「君が素直な子で安心した。よかったら放課後も一緒にどう?」
その申し出はありがたく受け取る。
何せ寂しいヤツな上に寂しがりなもんでしてね。オレは。その上その寂しさを自分で解決できない頑固者ですらある。
こればっかりは顔が怖いのがどうのって言うよりも誰彼構わず愛嬌を振りまけないオレの性格の問題ではあるだろうけど。
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