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第8話:オッドアイはヒロインの嗜み

 前にも言ったかも知れないが、MQLはシリーズを纏めて一つの作品にしたゲームだ。


 なので主人公も複数存在するし、ヒロインもプレイヤーが自主的に選ぶような仕組みであるため一作辺りのヒロインは男女含めて結構な数がいることになる。


 中には複数のヒロインを股にかけてクリスマスイベントでブッキングしまくって地獄を作り出すことを楽しむ特殊な性癖のプレイヤーもいるのを知っているが、

 オレは割と純愛が好きな方なのでそういうことはしないし、クリアのために色々なカップリングを試すことはあっても『まあ、この主人公のヒロインはこの子だよな』といったことは心のなかで決めている。


 オレがスマホを渡した相手は、まさしくその相手だった。


 MQL一作目、Lonsome wayの主人公、静間 結人の義妹。

 トーコこと、静間 遠子。


 後半で義妹であることがわかり、個別ルートも解放される。

 趣味で遊ぶときは大抵、この子をヒロイン枠にしていた。

 外見が好みなのもあるが、内面や、特殊ルートに行ったときの内容も──っと、いかん。そんなことを考えてる場合じゃない。


「ありがと! めっちゃ焦ったよ……!」


 黒い髪を伸ばして後ろで纏めている。小顔で大きな瞳。背丈は女子にしてはすらりと長い。

 顔立ちのよさは当然、最高だ。


 淡く微笑む。左の瞳の色は片方が鮮やかな空色。ゲーム中盤でオッドアイが原因でいじめられて、カラコン付けたりするんだよな。


「空色、キレイだ」

「へ?」

「やべっ、いや、えっと、違くて!」


 顔面凶器(悪い意味で)がそんなこと言ったらおしまいだ!


「スマホ、ちゃんとしまってな! それじゃ!」


 オレは全力で走った。

 その姿は実に滑稽だっただろう。だけど、それ以上に発言のほうが滑稽だ。


 心で思っていたことが口から出るなんて。オタクだ。オタクすぎる。

 恐るべき走力によってオレはクラスの人間が半分も来ていないくらいの時間に到着してしまい周りからチラチラ見られることに。


 顔面の凶器っぷりだけを考えれば不良同然だもんな。そりゃあ遅刻気味に来て先生に怒られて反抗しての学生ドラマめいたことになっているほうが自然ってもんではあるのかもしれない。


 などと朝の失言を忘れるためにもオレは視線に一方的な予想を立てつつ、

 オレの顔面由来で同級生たちの中で妙な誤解があるようならば、正当な評価に変えるための努力をせねば意識を強くするのだった。



 ✘✘✘



「空色、キレイだ」

「へ?」

「やべっ、いや、えっと、違くて!」


 少し顔は怖かったけど、わざわざスマホを拾って渡してくれた人。

 服装からして同じ学校。更に言えば校章の色で学年もわかる。同い年みたいだ。


 顔はちょっと……いや、黙って睨まれたら怖いかもしれないくらいの雰囲気はあるけど、落としたであろう人間を探して私に辿り着いてくれたってことだろうし、いい人だな、なんて思ってたら不意に言われた言葉。


 空がキレイ、って言っているわけじゃないのはわかった。目を合わせて、私の目の色のことを褒めてくれた。

 今までまっすぐに褒めてくれたのは家族だけ。

 みんな、なんだかんだオッドアイの私をかっこいいだとかは言うけど、それも冗談めかしてのことなのもわかっている。

 自分の身体的特徴が普通ではないことも、わかっていた。


 でも、あの子の言葉はまっすぐだった。まっすぐに、私の瞳を褒めてくれた。

 はじめての経験で、はじめての感情だった。

 似た感情で言えば、嬉しい、なんだろうけど。


「おまたせ、トーコ」


 出た途端に部屋に忘れ物をしたといって来た道を戻っていたのは私の兄、静間 結人。

 しゅっとしていて、顔立ちも整っている。少し甘めの顔立ちは女の子たちの憧れになっている。私も妹として誇らしい。


「どうしたの? 顔、赤いよ?」

「え、え? あ、赤い……?」

「うん、赤い。風邪でもなさそうだけど」

「その、えっと」


 私は兄を尊敬しているし、信頼もしている。

 隠し事はしたことがないし、相談を伏せたこともない。

 だから、今回だってそうする。

 自分では処理できないことを正確に表現してくれる結人が大好きだから。


「──ってことがあったんだ」

「いい奴じゃん。顔がコワイってだけじゃ特定は難しいけど」

「うん、いい人だった、よ?」


 褒めてくれたことを思い出せば、また少し嬉しくなる。


「ああ。なるほど。トーコそれって」

「それって?」

「あー、いや、全部語ると遅刻しちゃうし、まずは学校に行こうよ」


 はぐらかすようにして結人が走って学校へと向かい、私もその背を追った。

 その反応からして、結人が言いたいことはわかっているつもりだ。


『それって、恋じゃないの』


 そう言いたいのだろう。

 いやいや。

 そりゃあ私は節操なく素敵なものにはイイネと言うし、評価できる何かは大抵最大値を押してしまう頷きのハードルの低い人間だって自覚はあるよ。


 けど、流石に瞳を褒められただけで、そんな……。そんな。──ないない。ないよ。うん。

 毎日一話ずつ更新させていただきます!


 お楽しみいただけましたら是非、評価やお気に入り登録などしていただけますと人生の喜びになります!

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