第7話:学生になりたい
オレは鬼伏 直衛。
死ぬ前と目を覚ましたあとのオレには明確に別のものが混じっている感覚は残っている。
しかし、死ぬ前のオレが主体であるのか、目を覚ましたあとのオレが主体なのか、その境はない。
おそらく考えても仕方のないことなのだろう。
オレンジジュースとミルクを混ぜたあとにそれをもとに戻せないのと同じように、混ぜたものがオレンジジュースと呼べず、ミルクとも呼べないのと同じように。
自覚として、オレは鬼伏 直衛だ。それでいい。
ただ、記憶と知識が爆発的に増えた反動なのか、記憶の容器からこぼれ落ちてしまったものが多くある。
例えば、オレが通っていた学校についてとかだ。
その辺りは自分の家にあるものやメッセンジャーツール『0874』だとかを確認する。
ちなみに0874はMQLでは必要なときにのみ確認する程度の扱いだったが、現実世界となれば相当の頻度で鳴るはずのものである。
メールも電話も、SNSまで兼任する半ばライフライン化しているアプリであるからだ。
……なのだが、残念ながらオレのものは電波が入っていないかのように通知が鳴らない。
何故か。
簡単なことだ。
友達がいない。
悲しいことに、アプリの不具合でもなければスマホのエラーでもない。
それでもわかることは少なくない。
綱木学園。一年。鬼伏 直衛。
学園は幼稚園から大学までを揃えているマンモス学園ではあるが、オレは家庭の事情から途中編入している。
高等部に入ってまだ日も浅く、(改めて言うのも悲しいが)0874には友人らしいものは一件を除いて何もなく、クラスの連絡網程度しかない。
除いた一件は先日助けることができた詩織のものだ。こればかりはオレの意志で登録したものなので、この世界に来て最初の繋がりであるという大切なアカウントである。
……というのはさておき。
しかし、連絡網のお陰で自分の学籍番号だとかクラスだとかがわかる。リテラシー的にこういう使い方をしてもいいのかはわからないが。
各種SNSなんかも調べてみたが登録こそされているものもあったが、中身については何もない。
鬼伏 直衛という男の趣味。それに関しては声を大にして言うほどのものはない。精々、散歩とネットで活動している推しの配信を見ること。
あとは自分に関わりそうなもの、つまりは生年月日だとかアレルギーだとか既往症を調べておいた。後者二つに関してはナシ。
その内に眠くなり、書類とスマホを添い寝の相手に選んで床で翌日を迎えることになった。
──新しい日。とにかく、冴えない眠りから時間が流れて新しい日になった。
この世界を知り、愛し、歩むことを選ぶことができるオレにとっての新しい日が来た。
ブレザー式の学生服に袖を通す。
獣面凶相のオレには似合わないよなあと思いつつ。
しっかし、ゲームでも操作して学校まで歩いていける(エリアごとにマップの切り替えなどはあるけど)とはいえ、実際の世界として綱木学園まで行こうとするとノーヒントじゃたどり着けないかも知れない。
傍目から見るとオレの顔立ちの奴がウロウロ、キョロキョロ。ブレザー着てないと一発職質コースだろうな、これ。
……ん?
きょろきょろしたときに視線が誘引される。
地面に転がっていることが珍しいものがあった。
スマホだ。
スマホが落ちてる。
拾い上げる。
画面割れなし。落とした人よかったね。裏面も割れなし。よかったね。
とはいえ、どうしたもんかな。
道中に交番があったはず。イベントの発火点の一つだから覚えている。でも、学校までの道であろうここを進んで交番に至るかどうかの知識と確信がない。
なかったら困るモノ第一位だし、預けるのを優先するか。遅刻しちまったらそのときはそのときだな。
少し歩いたところに持ち主でもいたりしてくれれば早いんだが、それでもダメならアプリで交番のありかでも調べよう。
などと思いながら歩いていると前方におろおろと周りを見たり、自分の服を叩いたりして何かを探している女学生が一人。
もしかして、もしかするのか。
声をかけるか。
この強面で?
……いや、強面に声を掛けられるのと、スマホがないのとどっちがイヤかと言われればギリ後者だろう。
「あー、もしかしてスマホ落としたりしたか?」
せめて笑顔で対応しようとも思うが、ヘラヘラしているコワモテってのもヤバいかと思い半端な表情で声を掛けてしまった。
「えっ、あ」
振り返った女学生を見て、オレの瞳が大きく開いてしまった。
……オイオイオイ。ここでお会いできるとは。
彼女とここで会えるのは運命か? この世界はオレを祝福しているのか?
一人でテンションが上がって申し訳ない。
でも、相応の相手なんだ、オレにとっては。
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