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第6話:リザルト

 路地には戦いの痕跡も、五百地がいた跡も残っていない。

 怪異が起こした結果はすぐにであれば当事者をなんとかすれば世界は『なかったこと』としてしまう。


 それはこの世界ではまだ人間の存在と文明、社会が優勢である証拠である。そんなものは現実に存在しないのだという意志の結束と結集があればこそ、異常な痕跡を浚うようにして消し去る。


 ここは現実で、そうなれば右下辺りからにょきりと実績獲得を知らせる機能もあるわけがないが、それでもバッドエンドを未然に防いだ扱いだから『改稿』の実績をもらえる進行ではなかろう。


 オレは詩織が目を覚ます前に姿をくらませることも考えたが、追加で何かあっても困る。

 目が覚めるまで待つべきかと考えている間に彼女は目覚めて、まだ意識がしゃっきりと戻らないうちにタクシーに彼女と共に乗り込み、彼女の家に送り届けてそのまま自分も帰宅した。


 ぼんやりとしながらも彼女はタクシーの運賃を気にして、後で払うためにも連絡先を教えてほしいと求められ、つい交換してしまう。


 自宅まで戻れたのはちらりと確認したスマホにあったECサイトからの発送連絡があったからだ。それが自宅住所であると判断できたから帰宅できた。


 その自宅の内容は生活感のない2LDK。

 鍵もあり、帰るべき場所だという自覚もあるその場所だが、それ以外には何もない。


 モブの設定なぞなんでもかまわんだろうと言わんばかりの雑なものだった。

 両親がそれぞれ好き勝手に失踪したあと、手切れ金と言わんばかりに金と家財の全てを置いていった。今も社会的には両親と繋がっているが、もう何年も会っていない。会いたくもないが。


 家が生活感がないのは両親のものは全て捨てたからだ。


 もう一人のオレも同じような立場なのだろう。知識と経験から来る記憶の残滓に温かみのある思い出の一つもない。


 ……と、自分のことはどうでもいい。

 ソファに腰掛ける。


 今日は、という区切りにすればいいかはわからない。

 何せ二度死んでからここまで走り切ったからだ。


 疲れていないといえば嘘になるが、興奮が残っているうちに思考を纏めよう。


 オレがデバッグ的な代物から獲得した力。

 一つ目が詩織の心の中に入り、あの世界に存在した鎖やら何やらを破壊したもの。


心髄外科(マインデクトミー)


 対象の感情度が一定に高まっていたり、特定の条件(フラグ)を立てていたりする場合にのみ使用できるもので、条件が整って使えば対象に由来したアイテムが入手できる。

 デバッグ用なのか、開発途中で投げ出されたデータだからなのかはわからないが演出などがない。


 だから、今回のように他人の心に入りこみ、そこにあるものを切除できるものだとは思っていなかった。

 だが、彼女の心にあった戒めを切除した結果、手に入れたものがある。


 オレは掌を開き、念じる。

 ふわりと紙片が現れた。


 原作において、敵を倒すとごく稀にドロップするカードと呼ばれるもので、その対象が持っていたり、取り憑かれていたり、一体化していたりする怪異をカードとして手に入れることができる。


 詩織から手に入れたそれは五百地を倒したあの刑死の怪異のもの。

 彼女固有の観戦モードからなるエンドNo.4のものとは印象の違うものだが、おそらくあのまま凌辱されて精神が変質したりするなどで怪異の姿が変わったりするのだろう。


 流石にそれを試すようなことはしたくない。そもそも時間遡行を意識的にできるわけでもなく、まして自死を行って試すほどの度胸はオレにはない。


 ソファから立ち上がり、別の部屋に。

 記憶のうちではどちらかが寝室であり、開いたのはそうではなかった。

 机と椅子だけの部屋。死後に入った部屋とまるで同じであり、同時にかつてのオレが棲んでいたそれとも同じ、既視感と愛着のある部屋だった。


 椅子に座るといかなる不可思議が働いているのか。ふわりとノートとペンが現れる。


 表紙にはあのときと同じ文言が書かれている。

『MASS”QA”RAID』『██ノート:攻略、チャート、覚書』


 だが、中には何かが書かれているわけではない。オレの存在そのものがセーブデータ的なものだと考えればなんとなしに納得できた。

 納得したフリかもしれないが、腹落ちしているならそれでいい。ウジウジ悩んでいるなんてこの世界を生きる上で勿体無いだけだ。


 攻略用のノートではあるが、覚書ともあるし、あったことも書いておこう。

 このノートが消えたり現れたり、オレにしか見えないようであることを祈るばかりだ。

 誰かに見られたら完全に『年齢的な病』つまりは厨二病罹患者であることがバレてしまう。否定はしないが噂になったら恥ずかしいし。



 ✘✘✘



 サブクエスト:草紋 詩織の攻略達成に関する覚書


 この世界は確かに『MASS”QA”RAID』だった。


 街の風景だとか、怪異の存在だとか、そうしたものもあるが、何より彼女が現実に存在し、話すことのできる相手であったことがオレにとっての証明になった。


 ゲーム内でもサブヒロイントップクラスの可愛い姿だったが、実際に見ると破壊力がすごい。アイドル顔負けの美貌じゃん。世界最高!


 死亡するたびにノートを追加できればいいが、とりあえず今回は終わってからの記述にする。


 今後死んだら書けるかもと試そうとしているように思われる書き方なのは、このままこの世界で、以前のオレができなかったことを達成する──つまりは最大難易度の実績達成である『観戦モードに入ってからの攻略・解決』を成し遂げようとするなら確実に死ぬからだ。


 死ぬのは痛いからイヤだが、それを上回る喜びがこの世界にはある。息をするだけで楽しい。


 だからこそ、きっとまた死ぬようなことをする。死ぬことすら楽しいとまでは思わないようにするつもりだが、それでも様子のおかしい人だと言われても仕方がない。オレは愛しているんだ。この作品を。


 死亡回数:1

 死因:『闇堕ちルート/観戦モード、詩織編END No.4:文明の赤信号』に到達。

 メモ:この状態の詩織は他者の生死を操作することができる。

 観戦モードで手に入るスチルには死者が大量に転がっていた。そのうちの一人がオレだったのだろう。目が覚めた時点でこの状態だったので振り返るべきことはないオレの誕生日だ。ハッピーバースデー、オレ。


 死亡回数:2

 死因:触手経典儀(ローパスト)の五百地の触手に貫かれて死亡。

 メモ:本来であれば攻撃は致命打にならずにゴリ押しで勝てる相手だったが、一撃死した。オレが。

 この時点でこの世界の難易度設定が最上位の悪夢、ルナティックであることが確定。

 ルナティックのネームドエネミーは一般人の持ち得る通常手段で打倒不可能。


 攻略達成

 要因:五百地を詩織に撃退してもらい、詩織は髄外科によってバッドエンドルートの芽を切除。

 メモ:幾つかのバッドエンドルートを備えている詩織の、そのいずれもが彼女の不自由さと束縛、自分から一歩前へと歩けないようにされている状態こそが理由となっている。

 心髄外科によってそうした呪いじみた精神を纏めて切除。

 バッドエンドルートはこれで未然に防げたはず。


 獲得

 心髄外科の心得:使い方は理解した。

 詩織のカード:鎖に絡まれ、拘束具と鉄球付きの足枷などが付けられた女性剣闘士の絵が描かれている。下部には名称。『スパルタクス』とのこと。この世界のスパルタクスは女性らしい。髪の毛は燃える陽光のような赤みが強いブロンドが長く伸びている。そしてムチムチだ。ムチムチ感謝。


 次の目標

 学校に行きたい。

 何度となくモニタ越しに見た愛すべき学舎へ行きたい。

 実際の母校よりよっぽど帰属意識のある、我らがまことなる母校──『綱木学園(つなぎがくえん)』に……!

簡単なマトメ

草紋 詩織(そうもん しおり)

無印では顔のいいサブキャラだったが、MQLになった際にエンディングが追加されてヒロインクラスに格上げされた。

情に深い。ときに道を外れてしまうほどに。


五百地(いもぢ)

性癖に素直すぎて人外に飛び出していった元一般男性。

夜の闇で蠢き、既に十名近くを餌食にしている。

触手経典儀は魔導書であり、彼が人外に飛び出すに至った理由の一冊。


綱木学園(つなぎがくえん)

MQLにおける大体の主人公の通う学校。

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