第10話:メインルート
午後の授業。サボる訳では無いが、聞きながら自分の考えも纏めていた。
目的、と大きなことを言うつもりはないが、外そうとも思わないものがある。
その一歩目が詩織の救出だった。
最大の目的は最期まで取得できなかった実績の獲得だったが、どうにもそれだけでは済まないことになりそうだった。
結人だ。
会ってわかった。良いやつだ。
だが、同時にオレは知っている。主人公ゆえにバッドエンドを複数持つことを。
二股以上を掛けて女に刺殺されるところからはじまり、彼自身も闇落ちしてしまうルートだとか、実力不足でボスに取り込まれるルートだとか、数多のバッドエンドを持っている。
歴代主人公を広く見てもバッドエンドの数が多い人物。つまり『詰みやすい』主人公。
ああして話してしまえばもうダメだ。オレは結人に不幸になってほしくない。
心の広い相手に甘えるようで申し訳ないが、オレの中じゃもう友達だ。
そんで、数少ない友達を大切にしたいって思うことは普通だろう。
つまり、オレの新たな目的はそれ。つまり、彼にバッドエンドを踏ませないようにする、だ。意地でも回避させてやる。廃MQLerの名誉にかけて。
授業が終わり、放課後に。クラスの前には男女一組が待っていた。
結人とトーコだった。
「約束通り、来たよ。こっちは……まあ、紹介はいらないかな」
「朝はありがとね」
だからさあ。
顔のいい主人公とヒロイン候補がさあ。
並ばれるとさあ。
興奮しちゃんだよォ! 原作ファンなんだからさァ!! ここが現実だって、彼が一人一人の人間だって考えててもさあァ!!!
「ああ。スマホの画面割れてなかった?」
渾身の『なんてことのないフリ』。前世(?)を含めて人生一番のフリができたと思っている。
「割れも欠けもなし!」
笑顔と共に大きく指でVサインを作って見せてくれる。
「そりゃよかった。……っと、鬼伏だ。鬼伏 直衛」
「静間 遠子。トーコでいいからね」
「それじゃあ、オレは」
「直衛でいいよね?」
「……ああ、いいよ」
冷静なふりをして耐えている。
けど、これって見ようによっては女の子に照れまくっているチェリーボーイのソレなんじゃないのか。いや、それ未満だけどさ。
このままじゃイカン。尊厳とかがピンチだ。このまま静間兄妹にエスコートされてなるものか。
「親睦を兼ねてこのあとお茶でもどう?」
「いいね!」「行こう!」
絞り出すような意見に二人はノリノリで応じてくれた。
これで鬼伏クンと一緒にお茶してて友達の噂になったら恥ずかしいし……とか言われたら詰みだったぜ。精神的に。
とはいえ、お茶ってどこでするべきかな。学校の食堂は放課後も解放しているし、そこか……カフェテラスもあったよな、確か。あとは学外だけどファーストフード店か、郊外型のスーパーも圏内にあるからそこのフードコートとか?
選択肢は色々あるが──
「とりあえず、カフェテラスにでも行くか」
と、無難なところを選ぶと二人も改めて頷いてくれた。
現状は暫定的完全共感。パーフェクトなコミュニケーションだぜ。
移動しながらもそれとなく会話を回す。
「二人って兄妹なんだよな?」
「──……ッ」
トーコが息を吸う。
「あー……、うん」
明らかに二人の動作が鈍る。今までの二人の対応からは考えられない挙動。
つまり今のオレの発言が大いにマズかったことが伝わってくる。
結人もまた少しばかりの苦笑を浮かべて、
「……そうだよ。って言っても生まれた日はあんまり変わらないんだけどね」
愚かだ。オレは愚かだ。
オレは兄妹の話から仲いいね程度に広げようと思ってけど、よく考えなくても二人は血の繋がりがないのは原作勢は「アメンボ赤いなあいうえお」よりも先に学ぶようなレベルのこと。
何かしら話題に出さないとなあ。兄妹仲がよさそうだしそのあたりを話そうと思考停止で喋ったのがよくなかった。
ここで何があったのかも聞くのは輪をかけておかしい奴だ。さあて、どうするか。
起死回生の一手を何か……。
「血の繋がりがなくってさ、私たち」
はいトーコさん早かった。直衛くんは時間切れ。クイズ番組だったら負けです。
こうなっちまったらそのまま行くしかない。
「へえ。でも、なんかいいな」
「いい?」
「血の繋がりがあろうとなかろうと、仲の良い兄妹なんてさ」
これは実際、そう思っていることだ。
オレの記憶にある家族ってものはどっちであれ、フワフワしたものしか残ってない。
育てられた記憶はあまりなく、なんだか運が向いたから生きて、大きくなった程度。
飢えて死なない、夜露で濡れない、暇を潰せる程度には金は与えられているから放置しているってのとはまた違うんだろうけど。
「オレは家族仲とか希薄な家だったし、この顔にこの態度。ま、友達も少ないわけでさ」
だから、二人みたいな仲良しの兄妹ってのはそれだけで憧れるんだよな、と締めくくる。
「直衛」「直衛」
二人の声がハモって、同時にそれぞれがオレの左右の肩を叩く。
「友達だからね」
「友情を育もうね」
「なんか可哀想な感じが出ちゃうだろ! やめれやめれ!」
と言いつつ嬉しいんだよなあ。うん。
原作ファンだからとかじゃなくて、普通に、気のおけない友人が二人できた、そんな感じだ。
二人もそう思ってくれていると嬉しいが、そりゃあ求めすぎってもんだよな。
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