第42話:守護獣
「はははッ!! 大人をバカにしてはいけませんよお!!
我が教義は至高!! 我がドミニオンもまた至高!!
同胞たちも知らぬ本当の我が力を見れば考えも悔い改める!!」
電撃が吐き出され続け、周囲が白く塗られ続ける。
「やっぱり、気にしているじゃないですか」
声。
思わず梁尾は「なにっ」と呟いてしまう。絶対の自信があった一手だったからこそ言葉が漏れてしまった。
次の瞬間。
ばつん。
梁尾の腕が石顎によって噛み砕かれ、ちぎられる。
「ぎああああッ!! ああァああッ!?」
シーサーだった。
傷一つない。
悲鳴を断続的に上げながらも梁尾は何とか転がって石獅子と距離とを取り、ドミニオンと呼ぶ天使を前衛に立たせた。
「な、なぜ!?」
「わかりません」
「わかりま……な、な、ど、どうして」
「直衛さんが大丈夫だと言ったから、大丈夫なんです。私はそれを信じました」
絶句した。
目の前の少女は明らかに実戦経験もない、カモ同然だったはず。
それだけではない。
よもや自らの持つ戦力の把握が完璧でもない。
なのに、片腕を失った。窮地に至った。
全ての事象が梁尾の理解を拒んでいる。
シーサーが石造りの牙と顎で邪を噛み砕く『今』よりしばらく時を遡る。
✘✘✘
予想される決戦を前にオレは詩織に紙片を渡していた。
「こいつはシーサー」
「沖縄の」
「そうそう」
オレはオレで必死だった。
スパルタクスを返すのも手だったが、戦力バランスや彼女にとっての扱い易さを考えると、やはりこのまま借りているほうが安稗だと思った。
だからこそ、夜な夜な街を徘徊し、紙片を集めては合体して、ある存在を作り出していた。
それが、彼女に手渡した紙片。
描かれているのは南国らしいどこか陽気な色合いの、石造りの獅子。
沖縄の守護獣、シーサー。
獅子への信仰が海を渡り、本土においては狛犬などとして伝わる。
神様がおられる場所の定番の守護獣。
だが、シーサーは本土とは違う進み方をした。
民間に広く受け入れられ、家屋や町並みの守り神となり、今も沖縄のあちこちでシーサーは祀られている。
その信仰のされ方はMQL本編においてもしっかりと伝わっている。
存在や伝承の大きい神々と違い、低レベルから作り、扱えるシーサーは作品の定番キャラだ。
しかし、ただの定番ではない。
特筆するべきは防御性能。
石造りの体はそもそも炎をはじめとした属性攻撃に圧倒的に強く、聖獣ゆえに光や闇の力にも強い。更にその体ゆえに物理的な攻撃にも免疫がある。
後半になると攻撃手段やそもそも持っているスキルが低レベル帯ゆえに引退を余儀なくされるも、序盤で作れるというのに中盤まで不沈艦として大活躍する。
それを更に合体によって元の怪異たちの特性やスキルをあれこれと引き継がせた。
やりこみプレイヤーの知識を総動員した特製エイドロンだ。
「攻撃手段は噛んだり殴ったり体当たりしたり程度だ」
「扱いやすいですね、確かに」
「でも、それ以上に重要なのは」
ぺらぺらとMQLトークでオタクを晒しそうになる。
そもそも現実世界であるここでそれを言われても相手は困るだろう。属性だのダメージレートだの、なんだのと、目に見えるものでもない。
「どうして、何故と考える相手にこそコイツは活きる」
そして、現実世界だからこそ、こいつは活きる。そう考えることができた。
「そういう相手は大抵自信過剰だからな。
相手がそれならこれで、とドヤ顔で必殺の一撃だと何か打ってきたのは避けなくていい」
「危なくは」
「ない。絶対に耐える。徹底的で致命的な反撃を相手に与えるための頑丈さがある」
「わかりました」
詩織はそれだけ返した。
紙片を胸の中にしまうようにして、あとは実際の場面で試していきます、と。
遭遇戦での戦闘でも彼女はシーサーの頑丈さに驚いていたし、その頑丈さとパワフルさをすぐに理解して、戦術を組み立てていった。
シーサー。
オレの大切なヒロインだ。しっかり守ってくれよ。
✘✘✘
天罰めいた稲妻を受けてもシーサーは立っていた。
ダメージがまるでないわけではない。
それでもかすり傷程度。
構築に中に込められた祈りは確かにシーサーへと届いていた。
「あってはならない、あってはならないいィィ!!」
梁尾が叫びながら残った片手を前に出してドミニオンに攻撃を命じる。
「シーサーッ!!」
その叫びと同時に詩織も応じた。
稲妻を避けるではない、正面からぶつかり、最短距離を突き進む。
「小娘如きに、この、梁尾が負けるわけがないいいいぃッ!!」
「地金が出ましたね、梁尾さんッ」
ぐぱ、と巨大なあぎとが開く。
「容赦はしません。あなたは、直衛さんとトーコの大敵ですから」
次の瞬間に梁尾の頭部が、上半身が一撃で千切り──
「さようなら」
砕かれた。
断末魔すら上げさせない。
絶対的な勝利だった。
光の方向を見る。
それはより多くを空へと上げている。
行こうかと考えるが、周囲に存在している天使もどきたちは命令者を失ってから急に動き出す。
死後においても役目を果たすために事前に仕組まれていたのだろう。
それに反応するようにゆらりとシーサーが彼女の側に現れ、それらを睨んでいた。
「……わかっています、シーサー。
噛み砕くべきものはあの先にあるのでしょう」
それらに対して、冷たく詩織は言い放つ。「逃しません」と。
天使もどきに言語が理解できるとは思っていない。その言葉は自分自身を納得させるためだけのものだ。
あの先には戦いがあるだろう。
自分が行って役割があるかはわからない、だが、ここで天使もどきどもを壊滅させれば彼らの戦いに余計な横槍が入ることはなくなる
シーサーがゆっくりと構えを取り直す。
詩織の戦いは続く。
二人の勝利宣言を聞くまでは、続くのだ。
毎日一話ずつ更新させていただきます!
お楽しみいただけましたら是非、評価やお気に入り登録などしていただけますと人生の喜びになります!




