第41話:煽り屋
「お仲間のために壁となり時間を稼ぐ、ですか」
お見事。
美しい友情だ。
そのようなことを言いながら拍手をする。ただ、その音はどこか拍手とは違うものだった。
失った片手はガラクタを組み合わせて作った義手になっている。ただの義手ではない。無機物のはずのそれはコードやフレームがまるで生物のように脈動していた。それで奏でられる拍手は心地よい音は生み出さないらしい。
「この梁尾、感動いたしました」
涙を拭うような所作。そのすべてが道化じみていた。
何より人をいらつかせるのはそれらの所作がおどけているわけではなく、本気のものだったからだろう。
「ですが、」
梁尾が言葉を区切る。
彼の周囲に天使もどきたちが複数現れた。
いずれもが同じものはいない。いずれもががらくたで構築された見かけ倒したち。そのいずれのものたちも人間に祝福を捧げるようなことはないだろう。
与えるとしたならば、死だけだ。
それを明確に伝えているのは頭頂部に備えられた刃物や突起物。壊れた傘、避雷針、包丁、とがっていれば何でもかまわないのだろう。
「そのような石のけだもので、我が天使の相手をできるとでも言いたいのならば実に楽観主義。
我が能力、統括者はそれほどたやすくはありませんよ。
そもそもがあなたと私では実戦経験の数も」
語る梁尾に返答と言わんばかりにシーサーを操り、天使もどきを砕いていく。
「言葉が多いですね、梁尾さん。
自信のなさが出ていますよ」
詩織は多弁ではない。
優等生であり、良識人であり、そのようであれと育てられてきた少女だ。
他人を不快にせず、自らの評価を維持、あるいは向上させるための対人能力は両親から仕込まれている。
詰め込み教育は学問だけではないのだ。
そして、彼女はその教育から得たものの多くを振り回すだけの知性と柔軟性があった。
だからこそ、
「以前戦った天使のようなものとはまるで違いますよね。あなたの使役する天使もどきって」
天使食らいと天使もどきは攻撃方法や使途はおそらく同じようなもの、つまりは彼らの教義のために行動しているのだろうことはわかる。
だが、まるで違うのはその外見だった。
少なくとも天使もどきからはもどきらしく、天使らしさはない。あくまでフォルムだけが天使なだけだ。
「実は理解しているんじゃないですか、あなたが天使と呼ぶそのみっともないがらくたは、どこの誰も、身内にすら御使いなどと思われていないんじゃないかって」
なにをどう扱えば、他人が怒るかを理解していた。
「は。ははは。なにを。なにを」
梁尾が再び鷹揚に笑う。
だが、言葉の端々が尖るような硬質さを持ち始めていた。
「なにを言うか、下賤蒙昧な無宗教者ァ!!」
天使もどきが一斉に飛来する。隠していたものも動員しての一斉攻撃だった。
「……」
激昂する梁尾に対して言葉は投げかけない。投げかける価値もないと言いたげに眼鏡の位置を小さく直すだけに止まる。
次々飛来する天使もどき。
だが、その軌道も、行動も、全てを彼女は見切った。
必要最小限の動きだけでシーサーを動かす。
(多数の怪異を一斉に呼び出して、操っているように見える。でも、人間一人があれだけ複数の動体を制御できるわけがない。
どんなに慣れていても人間が同時に考えられる数は限られている。
一斉に動いているように見えるけれど、これは命令を下して放置しているようなものだ。幾つか細かく動いているのもいるけれど、つまりは)
直線的に動くものは回避し、細かい動きをしたものをシーサーが前足や噛みつき、頑丈なら体から放たれる砲丸めいた体当たりによって数を減らす。
(簡易な命令を下されている個体と、自身で操る個体がある。
前者は)
軽やかなステップで詩織に向かって突き進むそれらを避けていく。
大量の習い事のなかにあったバレエやダンスの経験が活きていた。詰め込み教育の生んだ怪物が、その力の使い方を実戦の中で成長していた。
「罠にはまっていただけまして、恐縮です」
梁尾がにたりと笑う。
その背後にはがらくたではない、精緻な作りで構築された天使のモニュメントが現れていた。
詩織がそれに対応しようとするよりも先に、天罰とでも言いたげな強烈な電撃が束となってシーサーへと叩きつけられ、その衝撃と光と熱が周囲を白く塗りつぶした。
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