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第40話:ゆうえんち

 まがいものの天使が辿った道を繰り返すようにして、夜街コリドーをしばらく進むと、一同は開けた場所に出る。


 それは──


「遊園地」

「地下に?」


「地下じゃないからな、ここは」

「どういうこと?」

「普通に生きてりゃしらない、もう一つの世界。あるいは、死ぬときにだけ認知できるような特異な場所」


 直衛が知る知識はMQLの作中にある描写や断片的に語られるものと、攻略本やらムックやらから得られるもの。

 世界そのものの知識とも言えるが、ゆるやかにシナリオという大きな主柱が直衛から認識が外れてきている今、自分の知識そのものも声高に言って正確なものであるかもわからない。

 だからついつい不明瞭な言い方になってしまう。

 それでも、


「幽世、あるいは迷い家のようなものですか?」


 詩織は知識を引き出すようにして言う。

 幽世は大ざっぱに言えばあの世、迷い家はこの世ならざる場所。

 彼女の端的な説明にトーコはなるほどと頷く。


 一方の直衛もまた、現世(この世)は世界の一側面でしかなく、様々な側面に神と呼ばれた、あるいは呼ばれていた存在たちの領域が存在しているというMQLの世界設定(ロア)を思い出していた。


「そんなところだ。つまりこれは」

「ここにいる神様の世界、もしくは心象風景、とか?」


 神の世界、神域。

 トーコの言葉はまさしく、端的に世界の別側面を言い表していた。

 ギリシャの神々の地ならばパルテノンのような神殿を中心とした風景が、北欧の主神の地ならば館か、あるいは永劫に行われる模擬戦のためのフィールドかが広がることになる。

 心象風景ならぬ神象風景こそが世界のあり方に反映される。


「遊園地を思う神様、かあ」


 トーコが思考を進めようとしたとき、遊園地中心にある観覧車が不気味な光を逆巻かせて天を揺らし始めていた。


「……なんだか、いやな光」


 見るものに怖気を覚えさせるような光。

 直衛はその光がかつてMQLを遊んでいた頃にバッドエンドの一つで見たものに似ているのを思い出す。ただ、そのことを伝えても士気が上がるわけではない。


「同感だ。さっさと消灯させちまおう」

「はあ、残念。せっかくの遊園地なのにアトラクションを楽しむ余裕はないってことね」


 軽口を忘れないのはトーコの強さの表れだろう。


「どうにもオレたち以外に客もいないってことは、楽しめるようなアトラクションは揃えていないんだろうさ」


 直衛が平静を保つためにあえて、やれやれといった具合に返す。


「ただ、目印になる間違いない」


 二人の少女が頷く。

 そうして三人は進んだ。



 ✘✘✘



 風が鳴った。

 特定のスポーツや、あるいは特別な人生経験でもない限りはそうそう聞くことのない風切り音。

 気を張っていたからか、あるいは何度となく命の終わりを経験する運命にある女であるからか。


「シーサーッ!!」


 名を呼ぶ。自らの内面に重なり合いつつある守護獣を。


 詩織はその音が飛来するよりも先に知覚していた。


 甲高い音と共に火花を散らした。

 片方は詩織の呼び出したシーサーであり、もう片方はシルエットだけならば天使と言い張れなくもない、不気味なジャンクの成形物。

 飛来してきた姿はおそらく、飛び魚にも似ていた。

 ただの石ではない。聖獣としての力が、守護を担う信仰が高次の力をシーサーに与えている。

 無傷ではないにしても、痛痒に至るものではなかった。


「お見事」


 ゆらと現れたのは大柄ながらも、どこか生気を感じさせない人物だった。

 片良瀬ともまた違うはずだが、着衣しているものだけではなく、纏う気配がそっくりだった。


「これほど早くの再会になるとは思っておりませんでした。

 世界が塗り変わったあとに、あるいはひれ伏した人々の中にその顔を見るかと思っておりましたが」


 片良瀬からは『梁尾』と呼ばれていた男だった。

 大仰な口振りは彼ら共通のものなのか。

 多弁もまた同様に、


 刹那。

 がちりと石と石が叩きつけられる音が響く。

 シーサーが語ろうとしている梁尾の顔面もろともをミンチにしてくれようと噛み砕かんとした。

 直前で気がついた梁尾はなんとか身を翻してそれを避ける。


「直衛さん、トーコ。先を急いでください。

 観覧車から上がっている光は加速度的に増しています。

 それが何かの制限時間を示しているはずです。

 彼の言葉の多さや不意打ち即戦闘になだれ込まないのがその証になりませんか」

「詩織」

「大丈夫です。あなたに寂しい気持ちを押しつけたりなんてしませんから」


 生き残る。

 生きてあなたと再会する。


 言葉の裏に強く意志が込められていた。


「……わかった。トーコ、急ごう」


 トーコは「でも」と言おうとしながら、ちらりと詩織を見る。

 その顔はもうこちらを向いていなかった。

 敵を、梁尾を、否。──未来を見ていた。

 ならば、トーコも迷うことはなかった。


 急ぐ。彼女の言う制限時間が満ちるより先に観覧車へと。

 毎日一話ずつ更新させていただきます!


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