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第28話:三人の誓い

 ◆詩織:学校にお越しになっていなかったんですね。

 ◆詩織:何かありましたか?

 ◆詩織:ご体調が優れませんか?

 ◆詩織:大丈夫でしょうか?


 ◆詩織:学校が終わりましたら、そちらに向かってもよろしいですか?

 ◆詩織:心配です。

 ◆詩織:直衛さん。大丈夫ですか?


 ◆詩織:行きますね。


(一部抜粋)

 ……いや、この数倍送られているってわけじゃないけど。まだそこまでヤバいモードには入っていない。そういうモード(ヤンデレ)に入る彼女もあるが、今はまだセーフだ。セーフのはずだ。

 だが、


 ◆直衛:連絡返せないでごめん。

 ◆直衛:今起きたよ。


 と、ここでチャイム。

 既読が付いていないあたり、送信と到着はほぼ同時だったのだろう。


 Q:問題です。

 愛の深い女が自分を心配して家に来てくれました。

 その自分の家には女の子が寝ています。

 中に通した場合どうなるでしょうか?


 A:刺される。


 いや、まだ大丈夫だ。セーフ。セーフのはずだ。

 付き合っているわけじゃないしな。

 理由を言えば彼女だってわかってくれる、というか、案じてすらくれるだろう。


 ここで居留守を使う意味はない。

 そればかりは詩織への裏切りになる。そんな気がしている。


「はいよ」

「ごめんなさい。その、今ちょうど0874の通知を受け取って」


 申し訳なさそうに瞳を逸らす詩織。

 服装は着替えたりする余裕もなく向かってきてくれたのだろう。


 制服のまま。改造したり超ミニにしたりもせずに、しかし野暮ったくならない程度にはスカートも折っている。

 自分の見た目が側にいる人間の不利益にならない程度に見目をよくしようとする社会性ってやつか。見習いたい。なにせただでさえ人を怖がらせる風貌してるからな、オレ……。


「こっちこそごめん。あー……ただ、ちょっと色々と事情があるんだ。とりあえず入ってくれるか?」


 小賢しくもオレには多少の口を回す才能がある。こればかりは自覚的だ。


 とくに言い訳については人二倍くらい得意だぜ。配信で培った技術。なにせリスナーくんたちと来たらMQLの配信でちょいっとした攻略の失敗をあげつらって再走要求をしてくるからな。

 だからどうにかしてそれを回避するための弁論をする。


 あくまでリスナーもオレもわかってやっているプロレスではあるが、それでも経験値ってのは貯まるもんだよな。


 今回は詩織に何かを考えさせるよりも先に部屋に入れる。

 入れば女の子の靴があることはわかる。

 であっても自分を部屋に招いたとなれば、男女の関係以外の何かではないかと鋭い彼女ならそこまで思考を先に回してくれるだろう。


「ええと」

「とりあえず飲み物でも入れるよ。紅茶でいいか?」

「あ、はい……。いただきます」


 そうしてイル・ミリオーネを淹れる。鮮やかな青色。

 彼女に手渡すとしばらく湖面のようなそれを見つめている。何をどう切り出すべきかと悩んでいるのだろう。


 ここでこっちも黙っちゃいい方向に転がらないだろう。

 優しい詩織のことだ、うまくここを切り抜けるような展開にしてくれるかもしれないが、そうなれば彼女の心の澱は溜まる一方。

 その果てにあるのはやはり観戦モードだろうし、なにより、そうしたこと抜きにしても世話になってばかりの詩織に不義理なことはしたくない。


「あー。そのな。そこの部屋。オレの寝室なんだけど、一人寝てんだ。

 それが──」


 切り出そうとしたところで、ぎいと音を立てて扉が開く。


「……」

「……」


 詩織とトーコがお互いに視線が交差する。


「ええと、」

「その……」


 二人はオレを見る。


「一応やっといた方がいい?」

「お約束というのはやれるときにさっさと消化したほうがいい、と先日参考にしたマンガに書いてありました」


「それって?」


 二人が小さく息を吸ってから、


「誰よその女!」

「誰ですか、この(ひと)は!」


 お互いに指を刺すようにして。確かにお約束ではあるが……。


「ノリのいい人でよかったです」

「付き合ってくれてありがと」


 二人が妙な演技はすぐにやめてお礼を言い合う。


 トーコは詩織が心配してこの家にわざわざ来たことを扉越しに聞いていたのだろう。

 状況がおかしな方向にいかないためにもわざとらしいお約束を実行した、ってことだろうか。

 しかし、詩織までやるとは。


 ──と、そこで思い出したがこの構図。

 いつぞや詩織が誘導してくれたおかげで彼女に話すことができた、これまでに読んできたマンガ、その一幕で出た奴に似ている。


 オレにとってはお約束としかとらなかったが、彼女にとっては会話の中で出たものをしっかり読んだぞというサインだったのかもしれない。ほんのり湿度を感じた。


「草紋 詩織です」

「トーコ。静間 遠子。よろしくね」


 トーコを見やる。目の下にははっきりとくまがある。肌艶の具合からも今までの流れが強がりと、生来備えた優れた社交性の賜物でしかないことは理解できる。

 オレは事情を知っているからというのもあるが、詩織においても何かを察知するに充分な情報量だろう。


「起き抜けだけど、トーコも紅茶はどう?」

「ん、もらおうかな」

「了解だ」



 ✘✘✘



 あったことを全て語らせるべきではないかもしれない。

 できたばかりの傷を開くようなものだからだ。

 だが、そんなオレの不安をよそに、


「詩織は──っと、ごめん。草紋さんは」

「詩織で構いません。その代わり私もトーコさんと呼ばせてもらいますね」


 先程の『お約束』をすぐさまに実行し、互いの立ち位置に敵愾心が含まれないようにおちゃめなことをしたのが信頼に能うとそれぞれが認識したらしい。


「じゃあ、そっちも呼び捨てにしてよ」

「……と、トーコ……」

「おっけ」


 にこりと微笑みで返す。

 作ったものではない。


「えっと、じゃあ。詩織。……詩織は、」


 ちらりとオレを見る。

 つまりはアヴァタールのことを話してもいいのかといった雰囲気だ。

 オレは小さく頷く。


「その、直衛のところに来ているってことはさ、

 不思議な力を持ってる、って思ってもいいの?」

「持っている……んですよね?」


 持っている。間違いなく。

 ただ、詩織の場合はちょっとだけ例外というか……。

 あのまま彼女にスパルタクス、というか世界の裏側とも言える怪異とバッドエンドが跋扈する世界にいてもらうと再び観戦モードに入りかねないおそれがあったので預かっている。

 預かった上でありがたく使わせもらってもいる。


 スパルタクスを彼女に返すだけでなく、別の怪異を渡し、アヴァタールとして扱ってもらえれば戦う力はすぐに手に入る。

 相性問題もあるので怪異であればなんでもと使えるというわけでもないが。


「ああ。発現することはできるが、今はできない。けど、重要なのはそこじゃないんだよな」

「うん。事情を話してもいいのか知りたいだけだから」


 でも、と一泊置いて、


「楽しい話じゃないし、私もまだ、消化しきれてないことだから。自分の心の整理のために話すことになるんだけど、いいかな」

「お聞かせください」

「ありがと、詩織」


 そうしてぽつぽつと話し始める。

 とはいっても、二人は家を出て、不意に現れた片良瀬に襲われた。

 彼女たちは片良瀬を知らない。

 襲われ、結人は殺され、呆然としている彼女を放っておいてふらりと姿を消す。

 その先にオレがいたわけだ。


 結人は死に。

 しかし、


「結人と約束したんだ。自分が死んだことだけでは終わらない。

 だから、その続きが起こらないようにしてほしいって」


 瞳をまっすぐに詩織を、それから次にオレを見据える。見据えたままに。


「結人が言うなら、きっとそうなんだと思う。

 だから──……力を貸して」


 自らの言葉を編もうとする。意を決するために。それがわかる。


「安心して、何もかも忘れて、結人を偲んでわんわん泣くために。……お願い」


 詩織はそっとオレを見る。

 ここで芋を引くわけがない。


 答えは決まっている。


「二人きりの約束になんてさせねえ」


 その約束が昇華されたあと、トーコはどうなる。

 二人の最後のそれのあと、独りになって……そんなのは寂しすぎる。

 想像するにあまりある寂寞とした未来の想像、結人に変わってオレが、意地でも否定してやるんだ。

 毎日一話ずつ更新させていただきます!


 お楽しみいただけましたら是非、評価やお気に入り登録などしていただけますと人生の喜びになります!


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