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第27話:ゲームオーバーにあらず

 学生身分、それも自己の境界が今と昔で曖昧な男の逃げ場など自宅くらいのものだ。いや、自宅があるだけありがたいという話だけど。

 ともかく、オレはトーコを抱えて逃げ帰る。


 簡単にベッドメイクをし直して彼女を寝かせる。

 シーツなどの替えがあって助かった。


 とはいえ、安穏としてもいられない。

 冷静になってしまえば、どうなるかもわからない。


 作品が好きだ。世界が好きだ。だから、今生きているこの世界が大好きだ。

 そこに住む人間の大半だって好きだ。


 だからこそ、なんとか目を背けている光景がある。血に染まった結人の姿。人間の死。いや、見てきていないと言えば嘘になる。


 繰り返す中で片良瀬を殺してもいる。手は幾度となく汚れている。けれど、正直それについてはどうでもよかった。


 オレが恐れているのは、結人の死を認識すること。この世界にもう結人がいないことを自覚すること。


 そして、オレが抱える感情の何倍も、倍数なんかじゃ比べられないほどのトーコの悲しみとどう向き合えるのか。それを恐れていた。


 だって、オレはどうしようもなく、しょうもない男だからだ。

 しょうもない男選手権をやったら県大会くらいには出られる自信がある。


 ああ、だめだだめだ。ネガティブの入り口が見えている。目を背けろ。思考を回せ。余剰を埋めろ。


 まずはオレの死についてだ。

 自死は試しちゃいないが、それ以外は体験した。死に戻りってのはどうやら存在しているらしい。ゲームオーバーから復帰するように、オレは目を覚まし直せる。


 この状況でわかったことがある。この、一種の特殊能力とも言える死に戻り(リスポーン)は主人公が持っていて然るべきものだ。だが、結人は死んでも世界は変わらなかった。


 世界の命運ってヤツとオレの命は繋がれているのだろうか。自惚れかもしれない。

 だが、呪いとは思わない


 この死に戻りがいつまで続くかのルールはわからないが、現状では観戦モードに入るような状況であれば確実に起こる。それは絶対のルール。受動的であっても知れたことは大きい。


 つまり、観戦モードに至る状況なら死に放題だ。


 オレが好いてやまない主人公たちのような強さはオレにはない。だが、彼らの強さとは違う強さを自覚できた以上、ある種の光明が見えた。


 命を担保にして運命を切り開く。担保にしておきながら新たな未来でオレは借金()を踏み倒す。


 結人の死を回避できなかった以上、オレができることなんてこうやって馬鹿馬鹿しい覚悟を決めるくらいしかないんだ。

 しょうもない男のしょうもなさと笑ってくれよ、脳内視聴者(リスナー)諸氏よ。


「行かない、で……ゆ、いと……」


 横になっているトーコが何かを求めるように空に手を伸ばす。

 何かはわかっている。兄の手を求めて。あるいは救いを求めて。

 兄でもなければ、救いを人様に与えられるほどの功徳を備えているわけでもない。

 だとしても、何もできないわけではない。


 オレはその手を掴む。

 力強くはないが、それでも握り返している。

 何かを掴めて安心したのかゆっくりとその手は下りて、やがて寝息が聞こえ始めた。

 掴んだのが藁だったと思われないためにも、彼女の安眠が自然に解かれるまで次に何をすべきかで再び思考の余剰を埋めるとしよう。



 ✘✘✘



 霊体は物理的な攻撃の殆どを無効化し、それ以外の属性の攻撃を弱点とする。


 MQL的に言えば『弱点属性によるダメージは二倍になる』。

 属性ってのはヘルハウンドが吐いた炎なんかがそれに該当する。

 あるいはトーコが備えているアンナも育てば魔法を行使することができる。


 MQLはシナリオが評価される一方で、戦闘においてはやや難解だと言われている。

 が、ここからはオタク特有の早口だ。結論は出すので聞き逃して結構だぞ、愛する脳内視聴者諸君。


 ──……詠唱(早口)開始。


 その原因はその攻撃や防御の相関性にある。

 霊体は物理的な攻撃を無効化する、といったが、これは殴る蹴る、切る突くといっただけの話に止まらない。


 武器を扱う怪異が持つ技の中の一つ。その獲物に炎を宿して殴ったり、その炎を飛ばしたりする炎熱武技(ヒート・スマイト)と呼ばれる技がある。

 これは『物理攻撃』と『炎熱属性』をタグとして備えている。


 霊体を持っているものは『物理攻撃以外に弱い』=『炎熱に弱い』ということなのだが、同時に『物理攻撃を無効化する』=『炎熱武技は物理攻撃なので無効化できる』でもある。


 このタグが重なった場合、どうなるかと言われるとタグ強度が参照される。


 例えば炎熱武技の場合、『物理攻撃:タグ強度6』、『炎熱属性:タグ強度4』であるとする。

 霊体には内部的には『強度10までの無効化を持つ。無効化して余った強度を弱点属性のタグの強度を減少する。減少させた結果0になるならその攻撃そのものを無効化する』という処理がされる。はい、ややこしい。


 これのせいで、同じ物理攻撃でありながら『煉獄拳』というスキルは霊体には通用する。なぜならば煉獄拳『物理攻撃:タグ強度5』、『炎熱属性:タグ強度5』に加えて、『疾風属性:タグ強度5』を持っているからだ。

 つまり、霊体の持つ10という数値がまず物理属性で5に減らされる。余ったので炎熱属性を5削ることができて、0になる。しかし、削りきれていない属性の中に疾風属性が5ある。結果として弱点である属性攻撃があるので無効化できずに弱点攻撃として扱われ、多大な被害を与えられるようになる。

 同じ物理攻撃でも通るものと通らないものが存在する。


 ──……はい、オタクの早口終わり。


 大事な結論としては、


『同じ物理と属性を兼ね合わせた攻撃でも通るものと通らないものがある』

『無効化されたのは無効化する能力の閾値が想定よりも大きい』


 ってことだ。

 最初からそう言えって? そうだね。でも一部のオタクは定期的に知識をひけらかさないと乾いて死んでいってしまう弱い生き物なんだよ。


 ともかく、霊体が最初は弱点をついて片良瀬をボコボコにできたのに逃げる直前で弱点を突いても通用しなかったのはこの辺りに何かあるのかもしれない。


 ボスだから普通のと違うスキルを持っているんですよ、なんてのはよくある話。MQLに限ったことじゃない。


 この辺りは検証をしないとわからないが、推論は立った。準備次第で次はぶっ倒せる可能性は見えてきた。

 いい感じに思考の余剰が消えている。最高だ。


 そんなときにスマホが震えた。

 送信者は詩織だった。

 毎日一話ずつ更新させていただきます!


 お楽しみいただけましたら是非、評価やお気に入り登録などしていただけますと人生の喜びになります!


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