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第29話:ファーム

 強くなる。


 ……と、一口に言っても簡単な答えが出せるものじゃない。


 当たり前の話を例え話に使うのもアレだが、格闘技で強くなることと撃ち合い(FPS)で強くなることはまったく別のことであるように、

 この世界が今のオレにとっての現実であるからこそ、オレが知っているお手軽レベリングで目に見えないレベルの概念が強化されたとしても、それがイコール戦闘能力の全てが向上するというわけではない。


 現実だから『敵に殴られたならHPという数値が減る』という事象だけがあるわけではない。そこには痛みもあれば焦りも出る。


 オレのように、心のどこかで戦いが遊び半分、あるいはゲーム気分であれば恐怖心は湧き上がることもほとんどない。


 それこそ人面犬をシバいたり、ヒサルキを張っ倒したりすることも恐ろしさはない。経験値稼ぎ(ファーミング)気分でしかない。

 ただ、それはオレがこの世界においての異物だから『そう』でしかないのだろうとも思う。


 普通に生きてきた女の子に現代伝奇モノめいたもの、それもバトル要素多めの物事に挑めというのは酷というものだろう。


 ゲーム気分──あるいはゲームでの体験が下地にあるからこそオレは身を竦ませずに済んでいるが、普通の感性をしてるなら敵を倒して強くなったとして、それでも戦いに偏在している恐怖心ってやつが身を竦ませるはずだ。


 ……そう思っていたんだけど。


「どうかな、結構自信作なんだけど……」

「とても美味しいです、トーコさん。こんなにお上手なんて、尊敬します!」

「詩織みたいに家庭料理が得意になりたいんだけどねえ」

「おばあちゃんちのご飯なんてよく言われて、おしゃれからは程遠い料理ですよ?」

「でも私と直衛の胃袋はガッチリ掴んでるじゃん」

「……だと、嬉しいんですけど」


 女子二人(トーコと詩織)はまるで日常の延長線のようにオレの家にいる。

 最初は帰そうとも思ったのだが、兄を喪ったばかりのトーコを独りにするのかと考えると……それは無理だ。


 かといって女子とワンオンワン(二人っきり)で?


 この世界以前のオレがモテてモテて仕方のないイケ男だったなら余裕かもしれないが、ゲームキッズでおそらくの生涯を通した人間だ。


 配信でそれなりに人との接触はあった。けど、薄い本とかでありがちな『他の配信者と繋がっていて』だとか、『昔からファンの子が実は美少女で……』なーんて展開はなかったはずだ。


 というか、配信絡みで人と会ったって記憶もほとんどない。

 いや、それはともかく。

 この状況をモテ男が如くに振る舞って進行させるってのは無理って話だ。


 そこで助け舟を出してくれたのが詩織だった。


 彼女は家に電話をすると大切な人が家族を失って辛いから一緒にいてあげたい、と。

 最初こそ詩織の家で預かるかという話になったらしいが、オレの知らないうちに話は別の形に転がり、二人がオレの家に住むことになった。

 詩織の家は強度がゴリゴリに鬼高い教育家庭のはず。上手くいった背景にいったいどんな話し合いが行われたかはわからない。


 記憶にある設定集にも『常人ならノイローゼの向こう側に行ってしまうレベルの熱心な教育が親に仕込まれている』程度のもの。


 完全に同棲していますってわけではなく、一週間で区切ると金土日月がオレのところ、それ以外は詩織の家で、ということになっている。


 妙に広いオレの家も寂しいと思ってしまうのは三日だけ。

 最初こそ慰める程度のことだけだったのだが、オレがレベリングに勤しむのを知ると、


「置いてきぼりにするな」

「私たちを心配するなら戦わせろ」


 と、詰められる。

 そりゃあ勿論、


「相手はバケモノ」

「命の危険がある」

「怖い思いもする」


 と並べ立てても、彼女たちは小さく笑うだけ。

 オレが死ねば観戦モードに至った世界から巻き戻る。

 つまり、自分たちが世界を滅ぼすに至るだけの力があるかについては殆ど知識はないはずではあるが、それでも世界を滅ぼしかけて、オレが心髄外科で『滅びの可能性』切り出すまでの自身のことは理解しているらしい。


 であるからこそ、


「何もかも消えるくらいなら」

「怖いことなんてありませんよ」


 二人が笑って返す。

 オレの価値観が古いというのはわかっている。所詮ゲームでコミュニケーションを学んだ人間だ。だからこそ、こうして接してわかる。女の子は強いのだ。守られてばかりではない。


「わかった。それじゃあ……しっかり予定を立てよう」


 本当ならまずオレが大急ぎでレベリングをして、それから二人をパワーレベリング──つまりは引率しながら敵を狩ってもらって強くなるかなんかを試したかったのだが。

 前述の通り、二人は守られてばかりの女の子ではない。

 知識の中にある『効率より安全を優先する』狩場を思考し、実行することにした。



 ✘✘✘



「詩織っ! そっち!」

「はっ、はい!!」


 二人が必死に不気味な球体を追いかける。

 よく見ればそれがバスケットボールのようなものに目鼻に口……のようなものがついた怪物であることがわかる。


 飛頭蛮(ひとうばん)と呼ばれる怪異であり、夜の一定時間に現れる。人面犬同様に出現させる手段を確立している。ゲーム中ではそれほどメジャーな稼ぎ相手ではない。


 こいつはとにもかくにも回避率が高い。通常の回避率とは別に《夜舞う飛頭》というユニークスキル(合体しても継承されない代わりに特別な力があるだとか、エネミー専用だとかって条件の付くものだ)を持っている。


 このスキルのせいで命中判定の前に確立で絶対に回避するタイミングを挟んでくる。

 いくら美味しいからって当たるかわからないコイツを追いかけ回して殴り続けるよりも人面犬レベリングをしたほうがはるかに効率がいい。


 それでも低確率で《朱色の証》と呼ばれるレアアイテムをドロップするメリットがないわけでもないが、所詮レアドロ。やっぱりここで粘るよりもガンガンレベル上げてより有利な力を持つレアドロを掘りに行った方が効率がはるかによろしい──ってのがオレが過ごしてきたMQLの通説だ。


 が、


「でやっ」

「詩織ぃー、ナイスヒット! こっちも!」


 ゲームの仕様と違うというわけではない。

 実際にオレが知っている情報かどうかを知るために事前に何度か一人の夜で飛頭蛮と戦っている。確実に《夜舞う飛頭》は存在する。


 オレの一撃がまるで次元が歪んだかのようにしてぬるりとアイツは回避した。命中までに掛かった時間も概ね平均程度。ごめん、ちょっと盛った。所詮オレの運であるので平均未満程度の戦績ではあった。


 だが、詩織の振るった一撃がヒット。飛頭蛮が大きく揺るぎ、動作が鈍る。そこに的確にして絶大なトーコのフルスイングが叩きつけられた。そのまま吹っ飛ばされ壁に激突。ぶわ、と光の粒子となって消える。撃破した。あっさりと、だ。


 これが選ばれしもの(ネームド)の力ってヤツかあ。


「あれ、これなんだろ?」

「なんでしょうね、赤くて、綺麗な……宝石?」

「ねー! 直衛ーっ! これなにー!?」


 ついでにレアドロ(朱色の証)もゲット。

 世界に愛されてる……。これがヒロインたちの証左ってヤツなのか……。

 毎日一話ずつ更新させていただきます!


 お楽しみいただけましたら是非、評価やお気に入り登録などしていただけますと人生の喜びになります!


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